2023年12月・東京地裁(報道)
権利は成立し得る
持分にも建物買取請求権は成立し得るとしながら、持分譲渡を伏せて交渉した経緯などから、今回の行使は信義則に反するとして請求を退けました。
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2026年8月28日 最高裁判決|令和6年(受)第2169号
区分所有建物の一つの専有部分を4人が相続し、そのうち3人分、合計4分の3を不動産会社が取得しました。会社が地主に求めたこと、一審・二審・最高裁で判断理由がどう変わったのかを、起きた順にたどります。
▼ スクロールで事件が進みます

1989年10月〜1990年7月
地主はAに、建物所有を目的として土地の一部を貸しました。契約は1990年7月に結ばれ、期間は1989年10月から30年。Aはそこに区分所有建物を建て、その中の一つの専有部分を所有しました。
2018年8月
相続の対象は、区分所有建物全体ではなく、Aが所有していた同じ一つの専有部分です。4人の子が、その所有権の持分を各4分の1ずつ取得しました。
一つの専有部分を、子4人が各4分の1ずつ共有
2019年10月
判決文は、その後、この土地の賃貸借契約が2019年10月から30年間として更新されたと認定しています。
2021年2月
判決文の上告人は、4人の子のうち3人から持分を買い受けました。報道によれば上告人は不動産会社です。取得したのは、同じ一つの専有部分の合計4分の3で、残る子1人は4分の1を持ち続けました。
不動産会社 4分の3 + 残る子1人 4分の1
買取請求の前提
持分の買受けに伴い、土地を使う賃借権の持分も譲渡されます。判決文では、地主がその譲渡を承諾しないことが前提になりました。この時点では、買取りはまだ行われていません。
2021年11月|不動産会社の請求
不動産会社は、自分が買った本件持分=合計4分の3について、借地借家法14条の建物買取請求権を行使すると地主に伝えました。そして、その持分の時価相当額と遅延損害金の支払いを求めました。請求額は約2700万円と報じられています。
東京地裁 → 東京高裁
報道によれば、一審は「持分にも権利は成立し得るが、今回の行使は信義則違反」としました。
二審は「持分には権利そのものが成立しない」と判断し、不動産会社が最高裁へ上告しました。
最高裁・第二小法廷
最高裁が判断したのは、賃借地上の建物の持分を買った人が、その持分について借地借家法14条の建物買取請求権を行使できるか、という点です。
最高裁が示した理由
判決は、建物全部なら地主は時価を払って所有権全部を得て、売却・新たな借地・取壊しなどを選べると述べました。
しかし持分だけでは、地主は代金を負担しても他人との共有に入り、処分や使用・収益が制約されます。また判決は、持分への投下資本は共有物分割請求によって回収を図り得る、と述べました。
2026年8月28日
最高裁は、建物の持分について建物買取請求権は成立しないと判断しました。区分所有建物の専有部分の持分でも同じです。結論は全員一致で、上告費用は不動産会社の負担とされました。
判決の結論
最高裁は、不動産会社の上告を棄却しました。そのため、会社が主張した「自分の4分の3を地主に時価で買い取らせる」という請求は認められませんでした。専有部分の持分でも結論は同じです。
上告棄却
全員一致
上告費用は会社
最初に確認
最高裁の公開判決は当事者を匿名にしています。このページでは、判決文で確認できる事実と、実名・所在地・金額・各審級の詳しい経過として報じられた情報を混ぜずに示します。
最高裁の公開判決
報道で補われた情報
公開判決には、建物名、部屋番号、用途、床面積、3人だけが売った理由、不動産会社の取得価格や事業計画は書かれていません。
建物買取請求権の入口
同じ建物買取請求権でも、借地借家法13条と14条では、権利を使う人と場面が違います。今回の賃貸借契約は2019年10月からさらに30年間として更新されているため、期間満了で更新されなかった事件ではありません。
借地借家法13条
借地人が地主に、借地上の建物を時価で買い取るよう求める場面です。
今回の借地借家法14条
建物を取得した第三者が地主に、取得した建物を時価で買い取るよう求める場面です。
14条が強い理由
要件を満たした意思表示が届くと、地主が買いたくないと思っていても、時価による売買が成立する形成権です。
判決文の認定事実と手続
1989年10月
賃貸借の期間が始まる
1990年7月
地主とAが、建物所有目的の土地賃貸借契約を締結
2018年8月
Aが死亡し、子4人が同じ専有部分を各4分の1ずつ相続
2019年10月
賃貸借契約を、この月から30年間として更新
2021年2月
不動産会社が子3人から専有部分の持分合計4分の3を購入(会社名は報道)
2021年11月
不動産会社が4分の3について建物買取請求権を行使すると通知
2023年12月
東京地裁が、権利は成立し得るが本件の行使は信義則違反として請求を棄却(報道)
2024年8月1日
東京高裁が、持分には建物買取請求権そのものが成立しないと判断
2026年8月28日
最高裁第二小法廷が上告棄却・全員一致
三つの裁判所の違い
不動産会社の請求は一審から最高裁まで認められませんでした。ただし、一審と二審以降では、請求を退けた法的な理由が異なります。
2023年12月・東京地裁(報道)
持分にも建物買取請求権は成立し得るとしながら、持分譲渡を伏せて交渉した経緯などから、今回の行使は信義則に反するとして請求を退けました。
2024年8月1日・東京高裁
不動産会社の交渉態度を検討する前に、建物の持分には14条の建物買取請求権そのものが成立しないと判断しました。
2026年8月28日・最高裁
建物の持分には買取請求権が成立しない。区分所有建物の一つの専有部分の持分でも同じだとして、上告を棄却しました。
最高裁の理由
建物全部を買い取る場合
地主は建物全部を取得するため、建物を売却して新たな借地権を設定することも、取り壊して土地を別の用途に使うこともできます。
4分の3だけを買い取る場合
地主は持分の時価相当額を負担しても、専有部分全体を自由に処分できません。残る4分の1の共有者と調整しながら使用・収益することになります。
代金を払うだけではなく、望まない共有関係と、その後の調整まで地主へ負わせる。最高裁は、これを重大な不利益のおそれと見ました。
判決理由に出てきた別ルート
不動産会社が実際にしたのは、地主に対する建物買取請求です。残る相続人に対する共有物分割請求ではありません。共有物分割は、最高裁が「持分取得者には、投じた資本を回収する別の手段がある」と説明する中で登場しました。
共有物分割で考えられる結果
不動産会社が全部を取得し、残る共有者へ金銭を支払う
残る共有者が全部を取得し、不動産会社へ金銭を支払う
競売で売却し、代金を持分に応じて分ける
裁判所が必ず不動産会社に全部を取得させるわけではありません。また、会社が専有部分全部を取得できても、賃借権の譲渡についての地主の承諾や、それに代わる裁判所の許可は別に検討する必要があります。最高裁も「先に共有物分割をすれば、必ず14条の買取請求ができた」とは述べていません。
尾島裁判官の補足意見
不動産会社側は、19条では「土地の上の建物」に持分を含める実務があるのに、14条だけ持分を含めないのは整合しないと主張しました。補足意見は、二つの制度の違いから答えています。
14条
第三者の意思表示により、地主の意思にかかわらず売買が成立します。個別事情に応じて条件を調整する手続ではありません。
19条
裁判所が一切の事情を考慮し、地主の承諾に代わる許可を与えます。借地条件の変更や財産上の給付を伴わせることもできます。
そのため、同じ「土地の上の建物」という言葉でも、19条では持分を含め、14条では含めないと解釈しても不自然ではない、と補足意見は説明しました。
絵と判決文の境界
判決文は、問題となったものを「本件専有部分」と記載しており、部屋番号・用途・間取りを示していません。そのため、図では建物内の一つの専有部分を青枠で示すだけにし、番号は付けていません。
人物の外見、建物の形、裁判所内の様子は説明用の表現です。元の所有者をAとするのは判決文どおりです。持分を買った上告人は公開判決では匿名ですが、本文では報道に基づき「不動産会社」と呼んでいます。
尾島裁判官の補足意見
補足意見は、この判決が「共有に巻き込まれない特別な場合なら認める」という例外を含むものではなく、建物の持分については一般に建物買取請求権が成立しない、という判断を前提にしていると説明しました。
事件から宅建試験へ
この最高裁判決そのものを問う過去問ではありません。判決を理解したあとに、宅建試験で繰り返し問われる「買取請求が成立する場面」「成立後の効果」「共有による制約」を、実際の問題文で確かめます。
AがBとの間で、A所有の甲土地につき建物所有目的で期間を50年とする賃貸借契約(以下この問において「本件契約」という。)を締結する場合に関する次の記述のうち、借地借家法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
本件契約に建物買取請求権を排除する旨の特約が定められていない場合、本件契約が終了したときは、その終了事由のいかんにかかわらず、BはAに対してBが甲土地上に所有している建物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
問題文で拾う言葉「終了事由のいかんにかかわらず」
この記述は誤りです
誤り。建物買取請求が認められるのは、存続期間の満了かつ更新しない場合に限られる。債務不履行による解除や合意解除など、終了の理由によっては請求できない。
この判決とのつながり
この判決の不動産会社は、借地上の建物持分を買った第三者として買取りを求めました。一方、この過去問は借地契約が終了した場面です。同じ「建物買取請求権」でも、誰が、何をきっかけに行使するのかを分けて読みます。
建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約(定期借地権及び一時使用目的の借地権となる契約を除く。)に関する次の記述のうち、借地借家法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
借地上の建物所有者が借地権設定者に建物買取請求権を適法に行使した場合、買取代金の支払があるまでは建物の引渡しを拒み得るとともに、これに基づく敷地の占有についても、賃料相当額を支払う必要はない。
問題文で拾う言葉「適法に行使した場合」「賃料相当額を支払う必要はない」
この記述は誤りです
誤り。代金支払と建物引渡しは同時履行なので、代金が支払われるまでは引渡しを拒める。しかし、その間も敷地を使っているため、土地の利用分(賃料相当額)は支払う必要がある。
この判決とのつながり
最高裁判決は、不動産会社の持分について買取請求権そのものが成立しないとしました。この過去問は、すでに「適法に行使した」ことを前提に、代金支払前の引渡しと敷地利用料を聞いています。問題文の段階が違います。
A、B及びCがそれぞれ3分の1の持分の割合で甲土地を共有している場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。なお、甲土地を分割しない旨の契約は存在しないものとする。
AがB及びCに無断で甲土地を占有している場合であっても、Bは、Aに対し、当然には自己に甲土地を明け渡すように求めることができない。
問題文で拾う言葉「当然には」「自己に明け渡す」
この記述は正しいです
正しい。各共有者は共有物の全部について持分に応じた使用ができます(民法249条1項)。共有者の一人が自己の持分に基づいて占有している場合は、たとえ無断であっても、他の共有者は(持分の過半数を有していても)当然には明渡しを請求できません(最判昭41.5.19)。
この判決とのつながり
持分割合はこの事件と異なりますが、共有が自由な単独所有ではない点は共通します。最高裁も、地主が持分だけを取得すると、望まない共有関係に入り、建物の処分や使用・収益が制約されると述べました。
3問から残す読み方
「建物買取請求権」と書いてあっても、すぐ認める・認めないを決めず、 誰が、何を、どの場面で買い取らせようとしているかを先に確認する。
※ 判決の認定事実は最高裁判決・広報資料、実名・金額・各審級の経過は報道に基づいています