「うそでも契約は有効?」 — 虚偽表示・錯誤・心裡留保の全体像
虚偽表示・錯誤・心裡留保 ここで押さえておくべきキーワード
「仮装売買」「勘違い」「冗談」— それぞれ契約はどうなる?
財産を隠すために「名義だけ友人に移す」仮装売買、値段を勘違いして「0が一つ少ない」で契約した錯誤、「冗談で売ると言ってしまった」心裡留保——これらは日常でもありうる場面です。
それぞれ当事者間の効力と、事情を知らない第三者が登場したときの扱いが論点になります。
特に虚偽表示は「善意の第三者保護」の典型として出題が多く、転得者の扱いまで問われることがあります。
錯誤は平成29年改正で「取消し」に変わった点が近年の頻出ポイントです。
虚偽表示・錯誤・心裡留保で何を学ぶ?どう出る?
この節の問題はほぼ毎年出題されます。
虚偽表示は「当事者間は無効・善意の第三者には無効を対抗できない」の基本と、転得者の扱いが問われます。
錯誤は取消要件(重大性・動機の錯誤の表示要件)と重大な過失の例外が頻出です。
心裡留保は「原則有効・相手方悪意なら無効」という逆転した結論が問われやすいです。
詐欺・強迫(前節)と第三者保護の要件(善意のみか、善意無過失か)を対比させる選択肢が多いです。
なぜ押さえる必要がある?
詐欺(前節)との比較で理解が深まります。
詐欺取消しの第三者保護は「善意かつ無過失」が必要ですが、虚偽表示の第三者保護は「善意」だけで足ります。
錯誤取消しの第三者保護は「善意かつ無過失」が必要です。
この違いが選択肢の正誤を分けます。
また錯誤の改正(無効→取消し)は平成29年改正の核心であり、旧制度の問題と区別するためにも改正後の条文を押さえることが重要です。
前提として何を知っておく?
意思表示の瑕疵として、前節で学んだ詐欺・強迫があります。
この節では、欺かれた・脅された以外の形で意思と表示が食い違う場面を扱います。
「通謀」「錯誤」「心裡留保」は被害者がいない(または自分が原因)という点で詐欺・強迫と異なり、保護の厚さが変わります。
仮装売買は無効だが、善意の第三者は守られる — 虚偽表示の基本
虚偽表示(民法94条1項)とは、相手方と示し合わせて(通謀して)真意でない意思表示をすることです。
財産隠し目的の仮装売買が典型例で、AとBが「実際は売るつもりがないのに、書面上はB名義にする」という取り決めをした場合がこれにあたります。
当事者間(AとB)では、この意思表示は無効になります(94条1項)。
AB双方が「本当は売買ではない」と知っていて合意しているため、法がそれを有効な契約として保護する必要はないというわけです。
しかしBが仮装取得した財産をCに転売し、Cがこの事情を知らなかった場合はどうなるか。
ここで94条2項が登場します——虚偽表示による無効は、善意の第三者に対抗することができない。
Cが善意(仮装であることを知らなかった)であれば、AはCに対して「この売買は無効だから土地を返せ」と主張できません。
図の見方: この図では、「虚偽表示の無効は善意の第三者に対抗できない」の当事者関係を、矢印の流れに沿って整理しています。
誰について善意・悪意や過失の有無を判断するのかに注目してください。
図解 / 権利関係
虚偽表示は「善意のC」を保護する
CはA・B間の仮装売買を知っていたか?
AとBが仮装売買をし、BがCへ転売した場合、Cが善意なら過失があっても保護される。
この図で見ること
- Cが善意:Cを保護、Aは無効を対抗できない
- Cが悪意:AはCに無効を対抗できる
Cが善意:Cを保護、Aは無効を対抗できない。Cが悪意:AはCに無効を対抗できる
重要なのは、ここでの第三者保護の要件が「善意のみ」だという点です。
詐欺取消し(96条3項)は「善意かつ無過失」が必要ですが、虚偽表示の第三者は善意であれば過失があっても保護されます。
虚偽表示は当事者が自ら作り出した架空の外形であり、外形を作ったAの帰責性が高いため、第三者保護の要件が緩くなっています。
善意の第三者からさらに買った「転得者」はどうなる?
CがBから取得した後、CがDに転売した場面を考えましょう。
AとBの間が虚偽表示で無効、CはBから取得した善意の第三者——この状況でCがDへ転売したとき、DはAに対して所有権を主張できるでしょうか。
判例(通説)は「前主(C)が善意なら後主(D)も保護される」とします。
Cが善意で94条2項により保護された時点で、AはCへの対抗を失っています。
DはCから正当な権利を取得するのですから、Dが悪意でも保護される、という論理です。
図の見方: この図では、「善意第三者からの転得者は悪意でも保護される」の当事者関係を、矢印の流れに沿って整理しています。
誰について善意・悪意や過失の有無を判断するのかに注目してください。
図解 / 権利関係
Cが善意なら、Dが悪意でも保護される
DはCから完全な権利を取得、Dが悪意でもAは無効を対抗できない
虚偽表示で善意の第三者Cが保護された後、悪意の転得者Dも保護される。
この図で見ること
- DはCから完全な権利を取得、Dが悪意でもAは無効を対抗できない
DはCから完全な権利を取得、Dが悪意でもAは無効を対抗できない
逆に、Cが悪意(事情を知っていた)でDが善意の場合、Dは保護されるか。
この場合は94条2項の「善意の第三者」をDとみてDを保護するという考え方もありますが、判例は個々の取得者ごとに善意を判断する(相対的構成)とも読めます。
試験上は「前主Cが悪意でも、転得者Dが善意なら保護される」と整理しておけばよいでしょう。
図の見方: この図では、「善意者を経た転得者には無効を対抗できない」の当事者関係を、矢印の流れに沿って整理しています。
誰について善意・悪意や過失の有無を判断するのかに注目してください。
図解 / 権利関係
Cが悪意でも、Dが善意ならDを保護する
Dを保護、AはDに虚偽表示の無効を対抗できない
虚偽表示で悪意の第三者Cから取得した転得者Dが善意ならDが保護される。
この図で見ること
- Dを保護、AはDに虚偽表示の無効を対抗できない
Dを保護、AはDに虚偽表示の無効を対抗できない
「勘違いして契約した」は取り消せるか — 錯誤の要件
錯誤(民法95条)は、表意者が意思表示の内容を勘違いしたまま契約を結ぶことです。
平成29年改正前は「無効」でしたが、改正後は「取消し」に変わりました(取消権者は表意者本人・代理人・承継人に限られ、相手方は主張できません)。
取消しが認められるには二つの要件が必要です。
①その錯誤が「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」であること、②表意者が重大な過失によって錯誤に陥っていなかったこと(重過失がある場合は原則として取消不可)。
重過失があっても例外的に取消せるケースが二つあります。
a)相手方が錯誤の事実を知っていた(悪意)または知らないことに重大な過失があった場合、b)相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていた(共通錯誤)場合です。
いずれも相手方側に問題があるため、重過失の表意者であっても取消しを認める趣旨です。
「動機の勘違い」は取り消せるか — 動機の錯誤の特別ルール
「地下鉄の駅ができると思って土地を高値で買った」のに実はそんな計画がなかった、という場面が動機の錯誤です。
意思表示そのもの(「買う」という表示)は正しく、その前提となる動機(「駅ができる」という事情認識)が間違っていました。
原則として、動機は意思表示の内容になっていないため、錯誤取消しの対象になりません。
ただし、その動機が「法律行為の基礎とされていることが表示されていた」場合は、95条2項によって取消しが認められます(民法95条2項)。
「駅ができることを前提に買います」と相手方に示していれば表示された動機として取消せる、ということです。
図の見方: この図では、「動機の錯誤は表示と第三者保護を分けて見る」の当事者関係を、矢印の流れに沿って整理しています。
誰について善意・悪意や過失の有無を判断するのかに注目してください。
図解 / 権利関係
動機の錯誤は「相手に表示したか」で決まる
Aは「駅ができることを前提に買う」とBへ表示したか?
地下鉄開通を動機に土地を買った場合、その動機を相手へ表示していれば錯誤取消しの対象になる。
この図で見ること
- 表示していた:重要な錯誤なら取消しの対象
- 表示していない:原則として取消しできない
取消し後の善意無過失の第三者には対抗できない
錯誤取消しと第三者の関係も詐欺と同じ「善意かつ無過失の第三者には対抗できない」(95条4項)です。
虚偽表示の第三者(善意のみ)より保護要件が厳しい点に注意しましょう。
「冗談で言ったのに」— 心裡留保はなぜ原則有効なのか
心裡留保(民法93条1項)は、表意者が「本心とは違う」ことを自分でわかりながら意思表示をすることです。
「冗談で売ると言った」「プレッシャーをかけるために売ると言った」などが典型例です。
原則は有効です。
相手方がそれを信じて取引に入った場合、「実は冗談でした」と言って無効にすることは、相手方の信頼を裏切ることになり不公平だからです。
表意者が自分で問題を作り出しているため、被害者への保護は手厚くなりません。
例外として無効になるのは、相手方が悪意(真意でないと知っていた)または有過失(知ることができた)の場合(93条1項但書)です。
この場合は相手方の信頼を保護する必要がないため、表意者側の真意を尊重します。
さらに、心裡留保による無効は善意の第三者に対抗できません(93条2項)。
「表意者が作った誤った外形」という点で虚偽表示と同じ発想です。
意思表示の比較まとめ
| 種類 | 当事者間の効力 | 第三者保護の要件 |
|---|---|---|
| 詐欺(96条3項) | 取消せる | 善意かつ無過失 |
| 強迫(96条) | 取消せる | 第三者保護なし(善意でも対抗可) |
| 虚偽表示(94条2項) | 無効 | 善意のみ(過失不問) |
| 錯誤(95条4項) | 取消せる | 善意かつ無過失 |
| 心裡留保(93条2項) | 原則有効・悪意/過失なら無効 | 善意のみ(無効の場合) |
図の見方: この図では、「意思表示の種類と当事者間効力・第三者対抗可否の一覧図」を、比較する項目ごとに整理しています。
誰について善意・悪意や過失の有無を判断するのかに注目してください。
図解 / 権利関係
第三者を守る条件は制度ごとに違う
善意だけか、無過失も必要か
心裡留保、虚偽表示、錯誤、詐欺、強迫について、当事者間の効力と第三者保護の条件を比較する。
この図で見ること
- 心裡留保:原則有効・無効の場合は善意のみ
- 虚偽表示:無効・善意のみ
- 錯誤:取消し・善意かつ無過失
- 詐欺:取消し・善意かつ無過失
- 強迫:取消し・第三者保護なし
善意だけか、無過失も必要か
ここまでの要点は?
- 虚偽表示は当事者間無効、善意の第三者には無効を対抗できない(第三者は善意のみで足りる)。
- 転得者の扱い:前主が善意なら後主も保護、前主が悪意でも後主が善意なら保護。
- 錯誤は平成29年改正で取消しに変更。要件は「重要な錯誤」かつ「重大な過失なし」。
- 動機の錯誤は動機が表示されていた場合のみ取消可(95条2項)。
- 錯誤の第三者保護:善意かつ無過失(詐欺と同じ)。
- 心裡留保:原則有効。相手方悪意・有過失なら無効。無効は善意の第三者に対抗不可。
- 第三者保護の比較:虚偽表示・心裡留保(善意のみ)vs 詐欺・錯誤(善意かつ無過失)。