「代理権がない人が勝手に契約した」— 無権代理と表見代理の保護の仕組み
無権代理・表見代理 ここで押さえておくべきキーワード
「息子が私の土地を勝手に売ってしまった」— 本人は取り戻せるか?
代理権を持たない者(または代理権の範囲外・消滅後の者)がした契約を「無権代理行為」といいます。
本人の同意なく行われた行為は当然に有効にはなりませんが、善意の相手方は保護されなければ取引の安全が損なわれます。
無権代理と表見代理は「本人保護と取引の安全のバランス」をどう取るか、という問題です。
無権代理・表見代理で何を学ぶ?どう出る?
18問と問題数が多く、重要ランクが高い論点です。
無権代理の基本(追認の効果・相手方の催告権・取消権・無権代理人の責任)と、表見代理の三つの類型(授権表示・権限外行為・代理権消滅後)が出題の中心です。
特に「相手方が催告したのに期間内に確答がなかった場合の追認みなし」や「表見代理が成立するための相手方の主観的要件(善意無過失)」が問われやすい論点です。
なぜ押さえる必要がある?
不動産取引で代理が使われる場面は多く、「代理権があるかどうか」の確認を怠ると無権代理のトラブルに巻き込まれます。
相手方としては「権限があると信じた場合には保護される」という表見代理の仕組みを理解することで、代理権確認の重要性も再確認できます。
前提として何を知っておく?
無権代理には三つの場面があります。
①全く代理権がない場合、②与えられた代理権の範囲を超えた場合、③代理権が消滅した後に行為をした場合です。
①②③いずれも原則として本人に効果は帰属しませんが、本人が「追認」すれば有効になります。
無権代理の基本 — 本人は追認できる、拒絶もできる
無権代理行為は、本人が追認(民法113条)すれば行為時に遡って有効となります。
逆に追認を拒絶すれば無効が確定します。
追認の意思表示は相手方に対してしなければ、相手方に対抗できません(民法113条2項)——本人がまず無権代理人に追認の意思を伝えても、その後相手方に伝えるまでは、相手方は取消権(後述)を行使できます。
図の見方: この図では、「無権代理の基本」の当事者関係を、矢印の流れに沿って整理しています。
代理権の有無と、法律効果が誰に帰属するかに注目してください。
図解 / 権利関係
無権代理の効力は、本人Aの選択で確定する
本人Aは、Bがした無権代理行為をどうするか?
代理権のないBがCと契約した無権代理行為は本人Aに当然には効力が生じず、Aが追認すれば遡って有効、拒絶すれば無効が確定する。
この図で見ること
- Aが追認する:A・C間で有効
- Aが追認を拒絶する:無効が確定
追認は相手方Cへ伝わるまで、Cに対抗できない
相手方を守る三つの権利
本人が追認するかどうか決まらない間、相手方は長期間不安定な状態に置かれます。
そこで民法は相手方に三つの権利を認めています。
①催告権(民法114条):相手方は本人に対し、相当の期間を定めて「追認するかどうか」を催告できます。
期間内に確答がなければ追認拒絶とみなします(催告の相手方は「本人」であることに注意してください。
無権代理人に催告しても意味がありません)。
②取消権(民法115条):相手方は、本人が追認するまでの間、契約を取り消すことができます。
ただし善意の相手方に限ります(悪意——無権代理であることを知っていた——の相手方は取り消せません。
知っていれば自己責任です)。
③無権代理人への責任追及(民法117条):本人が追認を拒絶した場合、善意かつ無過失の相手方は無権代理人に対して「履行」または「損害賠償」を請求できます。
無権代理人が「代理権があるかのように」行動した以上、その責任を無権代理人自身に負わせる趣旨です。
ただし無権代理人が制限行為能力者の場合は責任を負いません(本人が保護すべき制限行為能力者への配慮)。
表見代理 — 「代理権があるように見えた」なら相手方を保護する
無権代理の中でも、本人の側に「代理権があると見せる外形を作り出した落ち度」がある場合には、表見代理として相手方(善意無過失)を保護します(民法109条・110条・112条)。
表見代理が成立すると、その行為は有効な代理行為として扱われ、効果が本人に帰属します。
授権表示の表見代理(民法109条):本人が「Bに代理権を与えた」と第三者に示したが、実際には代理権がなかった場合です。
本人自身が外形を作り出しているため、善意無過失の第三者を保護します。
権限外行為の表見代理(民法110条):代理権を持つ代理人が、その権限を超えた行為をしたが、相手方がその範囲内と信じた場合です。
相手方が「相当の理由があって権限内と信じた(善意無過失)」であれば表見代理が成立します。
代理権消滅後の表見代理(民法112条):以前代理権を与えていたが現在は消滅している代理人が、消滅前の権限範囲内で行為した場合です。
相手方が「まだ代理権がある」と善意無過失で信頼したなら表見代理が成立します。
図の見方: この図では、「表見代理3類型の比較」を、比較する項目ごとに整理しています。
代理権の有無と、法律効果が誰に帰属するかに注目してください。
図解 / 権利関係
本人が作った外観を信じた善意無過失の相手方を守る
109条・110条・112条
表見代理の三類型である授権表示、権限外行為、代理権消滅後について、本人が作った外観と相手方の信頼を比較する。共通して相手方の善意無過失が必要。
この図で見ること
- 授権表示:実際は権限なし/本人が権限ありと表示・表示された代理権を信頼
- 権限外行為:一部の代理権はある/範囲を超えた・権限内だと信じる正当理由
- 消滅後:以前は代理権あり/現在は消滅・まだ代理権があると信頼
109条・110条・112条
表見代理の共通要件は「相手方の善意無過失」です。
相手方が「代理権がない」と知っていたか、注意していれば知れた(有過失)なら、表見代理は成立せず相手方は保護されません。
ここまでの要点は?
- 無権代理行為は本人の追認で有効、拒絶で無効が確定。
- 相手方の権利:①催告権(確答なければ追認拒絶みなし)②取消権(善意のみ)③無権代理人への責任追及(善意無過失が必要)。
- 表見代理:本人が外形を作り出した場合に善意無過失の相手方を保護する。
- 授権表示(109条)、権限外行為(110条)、代理権消滅後(112条)の三類型。
- 表見代理の要件:相手方が善意かつ無過失であること。