無権代理人と本人が死亡すると何が起きる? — 相続と復代理の論点
無権代理と相続・復代理 ここで押さえておくべきキーワード
「無権代理人が死亡し、本人が相続した」— 本人は追認拒絶できるか?
無権代理行為がされた後に、当事者の死亡・相続が絡むと状況が複雑になります。
「誰が誰を相続したか」によって結論が180度変わるのが無権代理と相続の論点です。
また、代理人が自分の代わりに別の代理人を立てる「復代理」も、法定代理と任意代理とで選任要件が異なるため注意が必要です。
無権代理と相続・復代理で何を学ぶ?どう出る?
問題数は1問と少ないが、「無権代理人が本人を相続した場合」と「本人が無権代理人を相続した場合」の結論の違いは頻出の比較問題として登場します。
復代理人の選任要件(法定・任意の違い)も問われやすいです。
なぜ押さえる必要がある?
「相続によって矛盾する立場を引き継いだ場合、どちらの立場が優先されるか」という考え方は、後で学ぶ不動産登記法・相続法とも絡む思考パターンです。
例外的な結論(追認拒絶できない)の理由を「信義則・矛盾行動の禁止」に求める判例の考え方も覚えておくと応用が利きます。
前提として何を知っておく?
前節で無権代理の基本(追認・拒絶・表見代理)を学びました。
本節の論点はその後に相続が発生した場合の処理です。
相続とは被相続人の権利義務を相続人が包括的に承継することであり、相続人は被相続人の権利も義務も引き継ぎます。
無権代理と相続 — 「誰が誰を継いだか」で結論が変わる
パターン①:無権代理人が本人を相続した場合
無権代理人Bが本人Aを相続すると、BはAの地位(本人の立場)も引き継ぎます。
追認権者であるAの立場を相続したBが、今度は「本人として追認を拒絶する」と主張することは、自分がした無権代理行為を自分で認めながらそれを覆す——という信義則に反する矛盾行動です。
そのため判例は、この場合追認の拒絶はできないとし、無権代理行為は有効と扱われます。
図の見方: この図では、「無権代理人が本人を相続すると追認拒絶できない」の当事者関係を、矢印の流れに沿って整理しています。
代理権の有無と、法律効果が誰に帰属するかに注目してください。
図解 / 権利関係
無権代理人Bが本人Aを相続すると、追認拒絶できない
Bは追認拒絶できず、無権代理行為は有効に扱われる
無権代理人Bが本人Aを相続すると、本人の地位も引き継いだBが自らの無権代理行為の追認を拒絶することは信義則上許されない。
この図で見ること
- A 本人:追認するか決める立場
- B 無権代理人:Cと無権代理契約
- Aが死亡 → BがAを相続
- B:本人の地位と無権代理人の地位が同一人に集まる
Bは追認拒絶できず、無権代理行為は有効に扱われる
パターン②:本人が無権代理人を相続した場合
本人Aが無権代理人Bを相続すると、AはBの地位(無権代理人の立場)も引き継ぎますが、Aは元々「本人」であるため、追認するかどうかは本人としての立場から判断できます。
本人は無権代理行為を追認しても良いし、追認を拒絶しても良いです。
ただし追認拒絶しても、AはBの責任(民法117条の無権代理人の責任)を相続しているため、善意無過失の相手方から損害賠償を請求された場合は応じなければなりません。
図の見方: この図では、「本人が無権代理人を相続しても追認拒絶できる」の当事者関係を、矢印の流れに沿って整理しています。
代理権の有無と、法律効果が誰に帰属するかに注目してください。
図解 / 権利関係
本人Aが無権代理人Bを相続しても、追認拒絶できる
Aは追認拒絶できるが、民法117条の無権代理人責任を負い得る
本人Aが無権代理人Bを相続した場合、Aは本人として追認を拒絶できるが、Bが負っていた無権代理人の責任は相続する。
この図で見ること
- A 本人:無権代理行為をされた側
- B 無権代理人:Cと無権代理契約
- Bが死亡 → AがBを相続
- A:本人の地位を保ちつつ、Bの責任も承継
Aは追認拒絶できるが、民法117条の無権代理人責任を負い得る
パターン③:第三者(相続人)が本人と無権代理人を共に相続した場合
本人Aと無権代理人Bが二人ともCに相続された場合、Cは本人の立場と無権代理人の立場を兼ね持つことになります。
この場合、「本人の立場」と「無権代理人の立場」を同一人Cが持つため、追認拒絶することは信義則に反するとも言えますが、Cが本人Aの地位を相続した者として追認を拒絶できるという考え方もあります。
試験では主にパターン①と②の比較が問われますが、複数人が絡む相続の問題では注意が必要です。
復代理 — 代理人が選んだ「代理の代理人」
復代理人とは、代理人がさらに選任する代理人のことです。
復代理人は本人を直接代理することになり、その行為の効果は直接本人に帰属します(民法107条)。
代理人はあくまでも代理権を持ち続け、復代理人を選任したことで自分の代理権が消えるわけではありません——代理人と復代理人が並存して、どちらも本人のために行動できます。
復代理人の選任要件は法定代理と任意代理で異なります。
法定代理人(親権者・後見人等)は、自己の責任で復代理人をいつでも選任できます(民法106条1項)——法定代理人は代替できない義務を負っており、何らかの事情で自ら代理できない場合(病気・高齢等)に備えて柔軟な手段が必要なためです。
任意代理人は、①本人の許諾を得た場合、または②やむを得ない事由がある場合にのみ復代理人を選任できます(民法104条)——任意代理は「この人なら信頼できる」という個人への信頼を基礎にしています。
本人が選んだ代理人が勝手に別の者に任せることを許せば、本人の信頼が損なわれます。
だから任意代理における復代理は原則禁止で、本人の許諾か緊急事情がある場合のみ例外的に認められます。
図の見方: この図では、「法定代理と任意代理の復代理選任要件の違い」を、比較する項目ごとに整理しています。
代理権の有無と、法律効果が誰に帰属するかに注目してください。
図解 / 権利関係
法定代理はいつでも、任意代理は許諾かやむを得ない事由
民法104条・105条
任意代理人と法定代理人について復代理人を選任できる条件と責任を比較する。元の資料索引の122頁対応にはずれがあるため、記事前後文と原資料117頁・118頁で確認した。
この図で見ること
- 任意代理人:本人の許諾、またはやむを得ない事由・選任・監督について責任
- 法定代理人:いつでも選任できる・原則として自己の責任
- 共通:復代理人は本人を直接代理・元の代理人の代理権も存続
民法104条・105条
任意代理人が復代理人を選任した場合の責任についても整理しておきましょう。
任意代理人は「選任および監督」について本人に対して責任を負います(民法105条1項)。
つまり、適切な人物を選び、かつその人物の活動を監督する義務があります。
不適切な人物を選んだり、放置して問題が起きたりした場合は、任意代理人が損害賠償責任を負いえます。
法定代理人は「自己の責任で」選任するとされており(民法106条1項)、復代理人の行為全体についてより広い責任を負います。
ここまでの要点は?
- 無権代理人が本人を相続→追認拒絶不可(信義則・矛盾行動の禁止)、行為は有効。
- 本人が無権代理人を相続→追認拒絶可(本人立場を維持)、ただし無権代理人責任を相続。
- 復代理人の選任:法定代理人はいつでも可。任意代理人は本人の許諾またはやむを得ない事由がある場合のみ。
- 復代理人選任後も代理人の代理権は存続する。