「約束が守られなかったとき」— 債務不履行の3類型と同時履行の抗弁権
債務不履行・同時履行 ここで押さえておくべきキーワード
「売主が引渡しをしないまま期日を過ぎた」— 債務不履行になる?
契約が成立しても、実際に相手方が履行しない場合があります。
引渡しが遅れる、完全に履行できなくなる、一応引き渡したが不完全だった——これらをまとめて「債務不履行」といいます。
どの類型に当たるかによって、買主が取れる対応(損害賠償・解除)の手順が変わります。
宅建試験では「同時履行の抗弁権」が特に重要なポイントです。
債務不履行・同時履行で何を学ぶ?どう出る?
4問と少ないですが、同時履行の抗弁権(民法533条)の「どの場面で使えるか」を問う問題が頻出です。
また「弁済の提供をしなければ相手の履行遅滞を問えない」という点や、確定期限付き債務と不確定期限付き債務・期限なし債務とで「遅滞の成立時期が異なる」点も問われます。
なぜ押さえる必要がある?
不動産売買では「代金の支払い」と「建物の引渡し」が双方の義務になります。
どちらが先に履行しなければならないか(あるいは同時か)は、売買契約の構造上の基本です。
「相手が払わないから引き渡さない」という主張が法的に認められるか、そのためには何が必要か——こうした実務的な問いに答えるためのルールです。
前提として何を知っておく?
民法では契約によって生じた請求権を「債権」、それに対応する義務を「債務」といいます。
債務を履行しない状態が「債務不履行」です。
債務不履行があると、債権者(請求する側)は損害賠償請求や契約解除ができます。
債務不履行の3類型
①履行不能:債務の履行が不可能になった状態です。
売主が売却予定の建物を第三者に二重売りして引渡せなくなった場合などが典型例です。
履行不能の場合は催告不要で即時解除ができます(民法542条1項1号)。
②履行遅滞:履行は可能なのに、履行すべき時期(弁済期)を過ぎても履行しない状態です。
遅滞の成立時期は債務の種類によって異なります。
確定期限付きの場合は期限が到来した時から遅滞となります(民法412条1項)。
不確定期限(「Aが死亡したとき」など)は期限到来を知った時から遅滞となります(同2項)。
期限の定めがない場合は催告をした時から遅滞となります(同3項)。
③不完全履行:一応の履行はしたが、その内容が不完全な状態です(引き渡した建物に欠陥があったなど)。
現行民法では「契約不適合責任」(別節)として処理される場面が多いです。
図の見方: この図では、「同時履行の抗弁権」を、構成要素どうしの関係で整理しています。
登場人物・対象物と矢印の向きを順に追ってください。
図解 / 権利関係
相手が履行しない間は、自分も履行を拒める
AもBも、相手が履行または弁済の提供をするまで拒絶できる
売買契約では売主Aの目的物引渡義務と買主Bの代金支払義務が対価関係にあり、相手方が履行するまでは自分も履行を拒める。
この図で見ること
- A 売主:建物を引き渡す義務
- B 買主:代金を支払う義務
AもBも、相手が履行または弁済の提供をするまで拒絶できる
同時履行の抗弁権 — 「あなたが払わなければ私も渡さない」
同時履行の抗弁権とは、双務契約(売買・請負など)において、相手方が自分の債務を履行するまで、自分の債務の履行を拒否できる権利です(民法533条)。
売買契約では「代金の支払い」と「目的物の引渡し」が同時に行われるべきとされるため、買主が代金を払わなければ売主は引渡しを拒否でき、売主が引き渡さなければ買主は代金の支払いを拒否できます。
同時履行の抗弁権が成立するのは、次の要件を満たす場合です。
①同一の双務契約から生じた対価的な債務であること、②相手方の債務が弁済期にあること、③相手方が未履行であること。
重要なのは「弁済の提供」の問題です。
相手方の同時履行の抗弁権を排除するには、まず自分が弁済の提供(履行の提供)をしなければなりません(民法493条)。
弁済の提供があって初めて相手方は同時履行の抗弁権を失い、履行遅滞に陥ります。
逆に弁済の提供をしないで「相手が払わない」と言っても、相手方は同時履行の抗弁権を行使して履行を拒否できます。
同時履行の抗弁権が認められる具体的な場面としては、売買契約における「代金支払義務と引渡義務」の関係が最も典型的です。
加えて、請負契約における「報酬支払義務と仕事完成・引渡義務」も同時履行の関係にあります。
一方、「建物賃貸借の終了時における建物返還義務と敷金返還義務」については、敷金の返還は建物返還後でなければ確定しないため、同時履行の関係にありません(判例)——これがひっかけポイントです。
また、同時履行の抗弁権は訴訟でも主張できます。
原告が履行を請求した訴訟で、被告が同時履行の抗弁権を主張して認められた場合、裁判所は「同時履行を条件として」原告の請求を認める判決(引換給付判決)を下します。
原告勝訴ですが、支払いは自分が義務を果たした後——という形になります。
履行遅滞の「遅滞」という概念にも注意が必要です。
履行遅滞とは「履行すべき時期を過ぎても履行しない」ことを指しますが、遅滞に陥るためには「履行が可能であること」が前提です。
履行が不可能になった場合は「履行不能」という別の類型になります。
「遅れているのか、不可能なのか」の区別が解除の手段(催告の要否)に直結するため、重要な区別です。
ここまでの要点は?
- 債務不履行の3類型:①履行不能(履行不可能)②履行遅滞(遅れて履行しない)③不完全履行(不完全な履行)。
- 履行遅滞の成立:確定期限→到来時、不確定期限→知った時、期限なし→催告後。
- 同時履行の抗弁権(民法533条):双務契約で相手が未履行の間は、自分の履行を拒否できる。
- 相手方の同時履行の抗弁権を消滅させるには、自分が弁済の提供をする必要がある(民法493条)。