従業者証明書・帳簿・名簿——宅建業者が必ず守る業務上の義務
業務に関する義務(帳簿・従業者証明書等) ここで押さえておくべきキーワード
証明書を見せてください——従業者証明書の存在意義
訪問販売や電話勧誘の場面で「あなたは本当に○○不動産の従業者ですか?」と消費者が確認したいとき、どう証明するか。宅建業法は、業者が従業員全員に従業者証明書を携帯させ、取引の関係者から請求があったときは提示しなければならないと定めました(法48条)。また、業務に関して知り得た情報を外部に漏らさない守秘義務(法45条)も業者と従業員に課されています。
この規制で何を学ぶ?どう出る?
Aランクの論点で、業務義務の種類と内容が問われます。試験では次の4つの義務(①帳簿、②従業者名簿、③従業者証明書、④守秘義務)の中から、誰が対象か・いつまで保存するか・何を記載するかが問われます。H29年(問35-1)では「自ら貸主として締結した賃貸借契約を帳簿に記載する必要があるか」(×:自ら貸主は宅建業でないため不要)、同年(問35-3)では「帳簿に報酬額の記載が必要か」(○)が問われました。R2年(問39-1)では「従業者名簿は取引の関係者以外にも閲覧させなければならないか」(×)が出題されました。
なぜ押さえる必要がある?
宅建業者は不動産取引という高額・専門的な業務を行うプロとして、取引の透明性と記録の保存が求められます。帳簿・名簿・証明書の整備は、万が一トラブルが生じたときの追跡・調査を可能にするためのインフラです。また守秘義務は、依頼者の個人情報・財産情報が業務の過程で業者に知られることへの対応として不可欠な規制です。宅建士にも守秘義務(法75条の2)があり、違反すれば登録消除の対象となります。
前提として何を知っておく?
第12章で先に学ぶ供託所等に関する説明(法35条の2)とは別の話として整理します。本節の業務義務(帳簿・名簿・証明書・守秘義務)は、取引ごとの義務ではなく、業者の日常的な業務運営に関する義務という位置づけです。
従業者証明書の携帯義務(法48条)
宅建業者は、その業務に従事させる者に従業者証明書を携帯させなければなりません(法48条1項)。取引の関係者から請求があった場合には、提示しなければなりません(法48条2項)。
従業者証明書は宅建業者が発行するもので、宅建士証(都道府県知事が発行)とは別の証明書です。対象は宅建士だけではなく、役員・使用人等の従業者全員が携帯の義務を負います(非常勤役員も含む)。従業者証明書の携帯を怠った場合は10万円以下の過料(法83条)の対象となります。
従業者名簿の備置き・閲覧(法48条3項・4項)
宅建業者は、事務所ごとに従業者名簿を備え、取引の関係者から閲覧の請求があったときは、取引の関係者に限り閲覧に供しなければなりません(法48条4項)。「取引の関係者か否かを問わず閲覧させなければならない」は誤りです。
従業者名簿には、従業者の氏名・従業者証明書番号・主たる職務内容・宅建士か否かの別等が記載されます。名簿は廃業等から10年間保存しなければなりません(施行規則)。
帳簿の備置きと保存(法49条)
宅建業者は、事務所ごとに業務に関する帳簿を備え、取引のあったつど、法および省令で定める事項を記載しなければなりません(法49条)。帳簿に記載すべき主な事項として、取引の相手方の氏名・取引の形態・売買代金・報酬の額等があります。
帳簿の保存期間は5年間(新築住宅を売主として売買した場合は10年間)です。なお、帳簿に記載する業務は、宅建業者が「宅建業として」行った取引に限られます。自ら貸主として締結した賃貸借契約は宅建業に当たらないため、帳簿への記載義務はありません(最頻出の引っかけ)。
違反した場合、帳簿の不備は指示処分の対象となります(業務停止ではない)。
守秘義務(法45条)
宅建業者(およびその従業者)は、正当な理由がなければ、業務上知り得た秘密を漏らしてはなりません(法45条)。この義務は、宅建業者をやめた(廃業・退職)後も継続します。
「正当な理由」の例としては、依頼者の明示的な承諾を得た場合や、法令に基づく開示(行政機関への報告等)があります。単なる「第三者への親切心」や「知人への雑談」は正当な理由に当たりません。
宅建士にも同様の守秘義務が課されており(法75条の2)、正当な理由なく秘密を漏らした場合は宅建士の登録消除処分の対象となります。
守秘義務が「廃業・退職後も継続する」という点は重要なひっかけポイントです。業者をやめれば守秘義務は消えると思いがちですが、実際には在職中に知り得た秘密は退職後も漏らしてはなりません。不動産取引には、顧客の財産状況・家族構成・購入動機など非常にプライベートな情報が含まれるため、これらの情報保護を徹底する趣旨です。
| 義務の種類 | 条文 | 主なポイント |
|---|---|---|
| 従業者証明書 | 法48条1項・2項 | 全従業者が携帯。請求があれば提示義務 |
| 従業者名簿 | 法48条3項・4項 | 事務所ごとに備え付け。取引の関係者のみ閲覧可。廃業後10年保存 |
| 帳簿 | 法49条 | 事務所ごとに備え付け。5年保存(新築住宅の売主は10年)。自ら貸主の取引は対象外 |
| 守秘義務 | 法45条 | 業者・従業者全員。退職後も継続。宅建士は法75条の2 |
ここまでの要点は?
- 従業者証明書:全従業者が携帯義務。請求があれば提示(非常勤役員も含む)
- 従業者名簿:事務所ごとに備え付け。閲覧は取引の関係者のみ。廃業後10年保存
- 帳簿:事務所ごとに備え付け。5年保存(新築住宅売主は10年)。自ら貸主の賃貸借は対象外
- 守秘義務:退職後も続く。宅建士違反は登録消除の対象