成人でも「一人で契約できない」人がいる — 成年後見・保佐・補助の違いを整理する
成年被後見人・被保佐人・被補助人 ここで押さえておくべきキーワード
「判断力が弱くなった親が勝手に土地を売ってしまった」— 取り消せるか?
高齢で認知症が進んだ父が、業者に言われるまま土地を売る契約をしてしまった。
このような場合、家族は何もできないのでしょうか。
民法は判断力が低下した成人を三段階の制度で保護しています——成年後見・保佐・補助です。
それぞれ保護の範囲が異なり、宅建試験では「誰が何をできるか」の比較が頻繁に問われます。
成年後見・保佐・補助で何を学ぶ?どう出る?
この節の出題は「三つの制度の比較」が中心です。
①家庭裁判所の審判が必要、②各保護者(後見人・保佐人・補助人)の権限(同意権・取消権・代理権の有無)、③取り消せる行為の範囲が制度ごとにどう違うか——これらを表で整理して問う問題が多いです。
特に「被保佐人の取消しできる行為(13項目)」と「成年被後見人の行為はほぼ全て取消可」という対比が問われやすいです。
なぜ押さえる必要がある?
宅建業の取引現場でも、高齢者との契約をめぐる問題は現実に起きます。
成年後見制度の概要を理解することは、実務上も不可欠です。
また未成年者(前節)との比較で「相手方の善意悪意は関係なく取り消せる」という共通点を押さえつつ、各制度の微妙な差を整理することが試験対策の核心になります。
前提として何を知っておく?
三制度はすべて家庭裁判所の審判によって開始されます。
本人・配偶者・四親等内の親族・検察官等が申立人になれます。
いずれも本人の意思能力の程度によって区別されます——成年被後見人が最も程度が重く、被補助人が最も軽いです。
→ 未成年者
成年被後見人 — ほぼ全ての行為が取消しの対象
成年被後見人とは、精神上の障害により「事理を弁識する能力を欠く常況」にある者として、家庭裁判所による後見開始の審判を受けた人です(民法7条)。
常に判断力が失われた状態にあることが基準なので、三者の中で最も厳しく保護されます。
成年被後見人の行為のうち、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除いて、すべて取り消せます(民法9条)。
保護者の「同意」を得ても有効にはなりません——同意権はなく、後見人が「代わりに行為する」代理権のみがある点が特徴です。
なぜなら同意があっても意思能力のない状態での法律行為に法的意味を持たせることはできないからです。
図の見方: この図では、「成年被後見人の保護範囲」を、判断に必要な項目ごとに整理しています。
どの行為を単独で行えるか、どの行為が取消しの対象になるかに注目してください。
図解 / 権利関係
成年被後見人は「日常生活か」を最初に見る
成年被後見人が行ったのは日常生活に関する行為か?
成年被後見人の日常生活行為は取り消せないが、それ以外の行為は成年後見人の同意があっても取り消せる。
この図で見ること
- 日常生活に関する行為:取り消せない
- それ以外の行為:原則として取り消せる
成年後見人:取消権・追認権・代理権あり/同意権なし
被保佐人 — 重要な13項目の行為に同意が必要
被保佐人は、精神上の障害により「事理を弁識する能力が著しく不十分」な者として保佐開始の審判を受けた人です(民法11条)。
成年被後見人より程度が軽く、日常的な取引は一人でできますが、重要な財産行為については保佐人の同意が必要とされます。
民法13条が定める「同意が必要な行為」は主に以下のとおりです——元本の領収・不動産の売買など財産の得喪、借財や保証、訴訟行為、贈与・和解、相続の承認・放棄、遺産分割、新築・改築・増築・大修繕など。
これらの行為を保佐人の同意なしにした場合、取り消せます(民法13条4項)。
図の見方: この図では、「被保佐人の保護範囲」を、判断に必要な項目ごとに整理しています。
どの行為を単独で行えるか、どの行為が取消しの対象になるかに注目してください。
図解 / 権利関係
被保佐人は「重要な財産行為か」で分ける
その行為は保佐人の同意が必要な重要行為か?
被保佐人は民法13条の重要な財産行為を保佐人の同意なく行うと取り消せる。
この図で見ること
- 同意が必要な行為:取り消せる
- それ以外の行為:単独で有効に行える
保佐人:同意権・取消権・追認権あり/代理権は審判で付与
被保佐人の場合、保佐人に同意権があることが成年後見との大きな違いです。
また、家庭裁判所は審判で特定の行為について保佐人に代理権を付与することもできます(民法876条の4)。
被補助人 — 特定行為だけに制限、任意性が強い
被補助人は、精神上の障害により「事理を弁識する能力が不十分」な者として補助開始の審判を受けた人です(民法15条1項)。
三者の中で最も意思能力が保たれており、保護の範囲も最も限定的です。
補助開始の審判では、民法13条1項所定の行為の一部について、補助人の同意を要すると審判します(民法17条1項)。
つまり「どの行為に同意が必要か」は審判によって個別に決まります。
同意なしにした行為は取り消せますが、保護の範囲は成年後見・保佐より格段に狭いです。
図の見方: この図では、「3種類の制限行為能力者の比較」を、比較する項目ごとに整理しています。
どの行為を単独で行えるか、どの行為が取消しの対象になるかに注目してください。
図解 / 権利関係
判断力が保たれるほど、保護範囲は狭くなる
後見 → 保佐 → 補助
成年後見、保佐、補助について保護範囲、同意権、代理権を比較する。
この図で見ること
- 成年後見:日常生活以外ほぼ全部・なし・あり
- 保佐:13条の重要行為・あり・審判で付与
- 補助:審判で定めた一部・審判で付与・審判で付与
後見 → 保佐 → 補助
また補助開始の審判は、本人の同意がなければ開始できません(民法15条2項)——本人がまだ一定の判断力を保っているため、本人意思を尊重する規定です。
成年後見・保佐にはこのような本人同意要件はありません。
三つの制度の権限比較
| 制度 | 対象者の状態 | 保護者 | 同意権 | 取消権 | 代理権 |
|---|---|---|---|---|---|
| 成年後見 | 能力を欠く常況 | 成年後見人 | なし | あり(日用品除く全て) | あり |
| 保佐 | 著しく不十分 | 保佐人 | あり(13条所定) | あり(同意要行為) | 審判で付与可 |
| 補助 | 不十分 | 補助人 | 審判で付与(13条1項の一部) | あり(同意要行為) | 審判で付与可 |
ここまでの要点は?
- 成年被後見人:日用品除く全ての行為が取消対象。保護者(成年後見人)に同意権はなく代理権のみ。
- 被保佐人:民法13条所定の重要行為(元本領収・不動産売買・借財・訴訟等)に保佐人の同意が必要。違反すれば取消可。
- 被補助人:審判で定めた特定の行為のみ同意必要。補助開始には本人の同意が必要(成年後見・保佐には不要)。
- 取消しはいずれも相手方の善意・悪意を問わない。
- 保護者の代理権は「審判で付与」される場合もある(特に保佐・補助)。