「故意や過失で損害を与えた——損害賠償の責任はどう決まる?」— 不法行為と使用者責任
不法行為の成立・使用者責任 ここで押さえておくべきキーワード
「社員が会社の業務中に交通事故——会社も責任を負う?」
契約とは関係なく、故意・過失で他人に損害を与えた場合の損害賠償責任が「不法行為」です(民法709条)。さらに従業員の行為について使用者が責任を負う「使用者責任」(民法715条)も重要です。
不法行為の成立・使用者責任で何を学ぶ?どう出る?
29問が出題されます。「不法行為の成立要件(故意・過失・加害行為・因果関係・損害)」「過失相殺(被害者の過失による損害賠償の減額)」「使用者責任の要件(事業の執行中・選任・監督の懈怠)」「消滅時効(損害および加害者を知った時から3年)」が頻出です。
なぜ押さえる必要がある?
不動産取引の説明義務違反・心理的瑕疵の不告知等が不法行為を構成することがあります。また宅建業者が使用者として仲介担当者の行為について責任を負う場面を理解する必要があります。
前提として何を知っておく?
不法行為は「契約がなくても」発生します。不法行為が成立すると、加害者は被害者に対して損害賠償義務を負います(民法709条)。
不法行為の成立要件
不法行為が成立するためには次の要件が必要です(民法709条)。
①故意または過失——加害者に故意(わざと)または過失(注意不足)があること。
②他人の権利・法律上保護された利益の侵害——身体・名誉・財産等の権利を侵害すること。
③損害の発生——具体的な損害(財産的損害・精神的損害(慰謝料)等)が生じていること。
④因果関係——加害行為と損害の間に相当因果関係があること。
加害者の責任能力も必要です(民法712条・713条)——12歳未満等の未成年者や精神上の障害により責任を弁識する能力を欠く者は、責任能力がないとして不法行為責任を負いません(ただしその場合は監督者が責任を負う場合があります)。
過失相殺と損害賠償の範囲
過失相殺(民法722条2項):被害者に過失がある場合、裁判所はその過失を考慮して損害賠償の額を減額できます。例えば被害者も40%の過失があれば、損害賠償は60%に減額されます——この過失割合の認定は訴訟の中で争われることが多いです。
損害賠償の範囲は「通常損害」と「特別損害」に分かれます(民法416条の準用)。通常損害は原則として全額請求できます。特別損害(特別の事情によって生じた損害)は、加害者がその事情を予見できた場合に限り請求できます——契約に基づく損害賠償と同じルールが適用されます。
消滅時効(民法724条):不法行為による損害賠償請求権は、被害者が①「損害および加害者を知った時」から3年、または②「不法行為の時」から20年のいずれか早い方で時効消滅します。人の生命・身体を侵害した不法行為の場合は①の期間が5年に延びます(民法724条の2)。
使用者責任
使用者責任(民法715条):使用者(会社等)は、被用者(従業員等)が「事業の執行について」第三者に損害を与えた場合、その損害を賠償しなければなりません。
「事業の執行について」の判断:実際に行われた行為が外観上事業の執行とみなされれば足ります(外形理論)。例えば営業車を無断私用中の事故でも、外形上「会社の車」として見られていれば使用者責任が成立しえます。
免責事由:使用者が被用者の選任・監督について相当の注意をしたこと、または注意をしても損害が生じたであろうことを証明した場合は免責されます(民法715条1項ただし書き)——ただし実際の訴訟では免責はほぼ認められません。
求償権:使用者が損害賠償をした後、使用者は「故意または重大な過失」のある被用者に対して求償(費用の回収)できます(民法715条3項)。ただし求償の範囲は信義則上制限されることがあります(過大な求償は許されません)。
使用者責任と不法行為責任は「競合」します——被害者は加害者本人(被用者)と使用者の双方に請求できます。使用者と被用者は被害者に対して不真正連帯責任を負います(民法719条等の趣旨)。被害者はどちらからでも全額の賠償を求められ、一方が支払えばその限度で他方の責任も消滅します。
注文者の責任(民法716条):請負人に仕事を注文した者(注文者)は、原則として請負人の行為について責任を負いません——これは請負人が独立した事業者として仕事をするからです。ただし注文者が「注文・指図」に過失がある場合は責任を負います(例外)。使用者責任(715条)は「指揮監督下の被用者」についての責任であるのに対し、注文者責任は「独立した請負人」を使う場合の原則免責という点で対比して整理しておくと、試験の判断が明確になります。
ここまでの要点は?
- 不法行為の要件:①故意・過失②権利侵害③損害発生④因果関係(責任能力も必要)。
- 過失相殺:被害者の過失分は損害賠償額から減額できる。
- 消滅時効:損害と加害者を知った時から3年(生命・身体侵害は5年)、行為時から20年。
- 使用者責任(715条):事業の執行中の被用者の不法行為について使用者が連帯責任。
- 使用者は被用者に対して求償できる(信義則による制限あり)。