「相続したくない場合はどうする?」— 承認・放棄・遺言の使い方
相続の承認・放棄・遺言 ここで押さえておくべきキーワード
「亡き父に借金があった」— 相続しなければならないのか?
相続が開始すると、被相続人の財産(資産だけでなく負債も)がすべて相続人に移転します。
しかし借金だらけの相続は相続人にとって酷です。
そこで民法は「承認」「限定承認」「放棄」の選択肢を与えています。
また被相続人が生前に「誰にどの財産を渡したい」という意思(遺言)を残すことができ、遺言は法定相続に優先します。
承認・放棄・遺言で何を学ぶ?どう出る?
8問と中程度の出題数ですが、「相続放棄と代襲相続の関係」「法定単純承認の場面」「自筆証書遺言の要件(全文自書・日付・署名・押印)」「遺言の撤回はいつでも可能」「後の遺言が前の遺言に抵触する場合は後が優先」が頻出です。
承認・放棄の選択期間(3か月)も押さえます。
なぜ押さえる必要がある?
不動産の相続登記を行う場合、まず「相続人が誰か」「誰が承認・放棄したか」を確認しなければなりません。
特に相続放棄がされると相続人の範囲が変わるため、すべての相続人を洗い出す作業が不動産実務でも必要となります。
前提として何を知っておく?
相続の承認・放棄は、「相続開始を知ってから3か月以内(熟慮期間)」に選択します(民法915条1項)。
この期間内に何も手続きをしなければ、原則として「単純承認」とみなされます(法定単純承認)。
→ 相続人・相続分
単純承認と法定単純承認
単純承認とは、被相続人の財産と負債をすべて無限に承継する選択です(民法920条)。
別の言い方をすれば「全部引き受ける」ことです。
3か月の熟慮期間が経過しても限定承認・相続放棄の申述をしない場合、法定単純承認(自動的に単純承認とみなされる)となります(民法921条3号)。
また熟慮期間中であっても、「相続財産の一部を処分・隠匿した」「相続財産を自分のために消費した」場合も法定単純承認となります(民法921条1号)。
限定承認と相続放棄
限定承認とは、「相続した財産の限度で負債を引き受ける」選択です(民法922条)。
プラスの財産の範囲内で負債を払い、残った負債は責任を負わない——リスクを制限しながら資産も残す方法です。
ただし限定承認は相続人全員が共同で家庭裁判所に申述しなければなりません(民法923条)——一人でも反対すれば選択できません。
相続放棄とは、相続を全面的に拒否する選択です(民法938条)。
家庭裁判所に申述することで効力が生じ、放棄した者は「初めから相続人でなかった」ものとみなされます(民法939条)。
前節で学んだとおり、放棄をした者の子には代襲相続が認められません——放棄は本人の選択なので、その結果(放棄しなければ得られた財産)を子に流すことはしない、という論理です。
| 種類 | 手続き | 効果 | 代襲 |
|---|---|---|---|
| 単純承認 | 申述不要(法定単純承認あり) | 全財産・負債を承継 | — |
| 限定承認 | 全員で家裁申述 | 財産の限度で負債を承継 | — |
| 相続放棄 | 単独で家裁申述 | 初めから相続人でなかったとみなされる | なし |
図の見方: この図では、「相続の承認・放棄の選択と効果の比較」を、比較する項目ごとに整理しています。
誰がどの権利や地位を引き継ぐのかを順に確認してください。
図解 / 権利関係
3か月以内に、財産と負債をどこまで引き継ぐか選ぶ
熟慮期間
単純承認、限定承認、相続放棄について手続と効果を比較する。相続開始を知った時から3か月以内に選択する。
この図で見ること
- 単純承認:申述不要・法定単純承認あり・財産と負債を無限に承継
- 限定承認:相続人全員で家庭裁判所へ申述・財産の限度で負債を負担
- 相続放棄:各相続人が単独で家裁へ申述・初めから相続人でなかった扱い
熟慮期間
遺言の種類と要件
遺言は被相続人が生前に財産の帰属や処分について意思表示する行為です。
遺言は法定相続に優先します。
自筆証書遺言(民法968条):全文・日付・氏名を自書(自分の手で書く)し、押印することが要件です。
財産目録のみ、パソコン作成を添付することもできますが(民法968条2項)、その場合は各ページに署名・押印が必要です。
証人不要で秘密保持できますが、偽造・変造・紛失のリスクがあります。
公正証書遺言(民法969条):公証役場で公証人に作成してもらう遺言です。
証人2人以上の立会いが必要で(推定相続人・受遺者・その配偶者直系血族等は証人になれない)、後に内容が否定されるリスクが少ないです。
紛失の心配もありません。
秘密証書遺言(民法970条):遺言内容を秘密にしたまま、遺言の存在を公証役場で証明してもらう方法です。
証人2人以上が必要です。
内容が秘密なため、死後に開封されるまで中身は誰にもわかりません。
図の見方: この図では、「三種の遺言の比較」を、比較する項目ごとに整理しています。
列ごとの違いを追い、要件と効果を混同しないように確認してください。
図解 / 権利関係
三つの遺言は、作成方法・証人・保管の安全性が違う
方式違反は無効
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言について作成要件、証人、保管方法を比較する。
この図で見ること
- 自筆証書:全文・日付・氏名を自書し押印・証人不要/自宅または法務局保管
- 公正証書:公証人へ口授して公正証書化・証人2人以上/原本を公証役場保管
- 秘密証書:内容を封印して存在を公証・証人2人以上/内容は秘密
方式違反は無効
遺言の撤回と抵触
遺言はいつでも撤回できます(民法1022条)——生存している間は何度でも考えを変えられます。
後から作った遺言が前の遺言に抵触する場合、抵触する部分は後の遺言で撤回したとみなされます(民法1023条1項)。
また遺言の内容に抵触する行為(遺言で渡すとした不動産を生前に処分した場合等)も、撤回したとみなされます(民法1023条2項)。
遺言の内容に反する生前行為をしても、遺言書が存在する限り後の行為が優先されてしまうため注意が必要です。
遺言の効力は被相続人の死亡時に発生します。
遺言執行者(遺言で定めたまたは家裁が選任した者)が遺言の内容を実現します。
遺言執行者がいる場合、相続人は遺言の執行を妨げる行為ができません(民法1013条)。
ここまでの要点は?
- 熟慮期間:相続開始を知ってから3か月以内に単純承認・限定承認・放棄を選択。
- 法定単純承認:3か月経過で自動単純承認。財産処分・隠匿でも単純承認となる。
- 限定承認:相続人全員で家裁申述が必要。
- 相続放棄:単独で家裁申述。代襲相続はなし(放棄した者の子は代襲しない)。
- 遺言の優先:遺言は法定相続に優先する。
- 自筆証書遺言:全文自書・日付・署名・押印が必須要件。
- 公正証書遺言:証人2人以上、偽造リスクが最小。
- 遺言の撤回:いつでも可能。後の遺言や行為が前の遺言に優先する。