「アパートを借りたら、どんな権利と義務がある?」— 賃借人の権利義務と修繕
賃借人の権利義務・修繕 ここで押さえておくべきキーワード
「部屋のエアコンが壊れた——大家が直してくれないなら、自分で直して費用を請求できる?」
民法の賃貸借の規定(民法601条以下)は、賃借人と賃貸人の権利義務を定めています。
「使用収益させる義務(賃貸人の修繕義務)」「善管注意義務(賃借人の注意義務)」「原状回復義務」が試験の核心です。
2020年改正で「賃借人による修繕権」が明文化されており、特にそこが頻出です。
賃借人の権利義務・修繕で何を学ぶ?どう出る?
48問が出題されます。
「賃貸人の修繕義務の範囲」「賃借人が自ら修繕できる要件(通知または急迫事情)」「善管注意義務の内容」「原状回復の範囲(通常損耗は賃借人負担ではない)」が頻出です。
特に「通常の使用による損耗・経年変化の原状回復費用は賃貸人負担」は必ず押さえます。
なぜ押さえる必要がある?
不動産賃貸では原状回復トラブルが多いです。
宅建業者として敷金返還に関するアドバイスや退去時の確認作業を行う際、どの程度の損傷が「賃借人の負担」でどれが「通常損耗で賃貸人負担」かを正確に理解する必要があります。
前提として何を知っておく?
賃貸借契約は、当事者の合意のみで成立する「諾成契約」です(民法601条)。
賃貸人は「賃借人に目的物を使用収益させる義務」を負い、賃借人は「賃料を支払う義務」と「善管注意義務をもって使用する義務」を負います。
賃貸人の使用収益させる義務と修繕義務
賃貸人は、賃借人が賃貸物を使用収益できる状態に維持する義務を負います(民法606条1項)。
したがって建物に修繕が必要な箇所が生じた場合、原則として賃貸人が修繕義務を負います。
ただし、賃借人が修繕が必要な状態を引き起こした場合(善管注意義務違反等)は、賃借人の自己負担となります。
修繕義務を果たさない間、賃借人は使用収益できない部分の割合に応じて賃料の減額を請求できます(民法611条1項)——2020年改正で「請求できる」から「当然に減額される」に改正された点が重要です。
図の見方: この図では、「修繕義務の流れ」を、判断や手続の順番に沿って整理しています。
当事者それぞれの立場と、保護を受けるための要件に注目してください。
図解 / 権利関係
修繕が必要になった原因で、賃貸人と賃借人の負担を分ける
修繕が必要になった原因は賃借人Bの責任か?
賃貸物の修繕は原則として賃貸人が負担するが、賃借人の故意・過失や善管注意義務違反が原因なら賃借人が負担する。
この図で見ること
- Bに責任がない:賃貸人Aが修繕
- Bに責任がある:賃借人Bが負担
使用できない部分は、その割合に応じて賃料が当然減額
賃借人による修繕権(2020年改正)
2020年民法改正で明文化:賃借人は次のいずれかの場合、賃貸人の意思に反しても自ら修繕することができます(民法607条の2)。
①賃借人が賃貸人に修繕が必要な旨を通知したにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に修繕しない場合。
②急迫の事情がある場合(漏水で直ちに修理しないと損害が拡大する等)。
この場合、賃借人が修繕に要した費用は賃貸人に必要費として直ちに請求できます(民法608条1項)。
有益費(賃借人が価値を高めるために支出した費用)は賃貸借終了時に請求できます(同2項)。
図の見方: この図では、「賃借人による修繕権の要件」の当事者関係を、矢印の流れに沿って整理しています。
当事者それぞれの立場と、保護を受けるための要件に注目してください。
図解 / 権利関係
通知後も直さない、または急迫なら賃借人が自ら修繕できる
どちらかの要件を満たしているか?
賃借人は修繕の必要を通知しても賃貸人が相当期間内に修繕しない場合、または急迫の事情がある場合、自ら修繕できる。
この図で見ること
- 満たしている:賃借人が修繕できる
- 満たしていない:原則として自力修繕不可
必要費は賃貸人へ直ちに償還請求できる
善管注意義務と原状回復義務
善管注意義務(善良なる管理者の注意義務):賃借人は賃借物を善管注意義務をもって保管しなければなりません(民法400条準用)。
通常の使用方法を超えた損傷(傷・汚れ等)は善管注意義務違反となり、退去時に賠償義務が生じます。
原状回復義務:賃借人は退去時に賃借物を「原状に回復」して返還する義務を負います(民法621条)。
ただし「通常の使用・収益によって生じた損耗(通常損耗)」および「経年変化(経年劣化)」については、賃借人の原状回復義務に含まれません——この点は2020年改正で明文化されました。
| 損傷の種類 | 負担者 | 具体例 |
|---|---|---|
| 通常損耗・経年変化 | 賃貸人負担 | 日焼けしたクロス・冷蔵庫跡・ネジ穴 |
| 善管注意義務違反 | 賃借人負担 | タバコのヤニ・ペット傷・水漏れ放置による腐食 |
図の見方: この図では、「原状回復の考え方」を、判断に必要な項目ごとに整理しています。
各項目を上から確認し、どの要件で結論が分かれるかを押さえてください。
図解 / 権利関係
通常損耗・経年変化は賃貸人、借主の落ち度は賃借人が負担
退去時に新品へ戻す義務ではなく、借主の責任部分を原状回復する
原状回復義務では通常損耗・経年変化は賃貸人が負担し、賃借人の故意・過失や善管注意義務違反による損傷は賃借人が負担する。
この図で見ること
- 賃貸人負担:日焼けした壁紙・家具・冷蔵庫の設置跡・通常使用による摩耗
- 賃借人負担:タバコのヤニ・焦げ・ペットによる傷・水漏れ放置の腐食
退去時に新品へ戻す義務ではなく、借主の責任部分を原状回復する
賃貸借の期間・存続
民法の賃貸借の最長期間は50年(民法604条)——それを超える場合は50年に短縮されます。
最短期間は特に法定されていません(1日でも可能)。
賃貸借の終了時の原状回復注意点:賃借人が退去時に原状回復した後も、特約で一定の費用を賃借人が負担するよう定めることは可能ですが、消費者契約法上の「消費者の利益を一方的に害する条項」に該当する過大な費用負担特約は無効となります。
例えば「いかなる理由でも室内の全クリーニング費用は賃借人が負担する」という特約は、通常損耗費用を賃借人に転嫁するものとして争われることがあります。
解約予告期間(民法の規定):期間の定めのない賃貸借において、土地の場合は1年・建物の場合は3か月の解約申し入れ期間を経て終了します(民法617条1項)。
借地借家法(借家)が適用される建物賃貸借では、さらに賃借人保護のルールが上乗せされます——これは次のユニットで確認します。
賃貸人が交代した場合(不動産の売買等)、賃借権の対抗要件(引渡し)を得ていれば新賃貸人に賃借権を主張できます(民法605条の2第1項)。
これは「売買は賃貸借を破らない」原則の2020年改正での明文化です。
図の見方: この図では、「賃貸人変更時の賃借権の対抗」の当事者関係を、矢印の流れに沿って整理しています。
当事者それぞれの立場と、保護を受けるための要件に注目してください。
図解 / 権利関係
建物の引渡しを受けた賃借人は、新所有者にも賃借権を主張できる
Bは引渡しを対抗要件として、Cに賃貸借の継続を主張できる
賃貸建物が旧賃貸人Aから新所有者Cへ譲渡されても、建物の引渡しを受けて対抗要件を備えた賃借人BはCへ賃借権を対抗できる。
この図で見ること
- 賃貸借・引渡し
- 建物を売却
- A 旧賃貸人:賃貸建物をCへ売却
- B 賃借人:建物の引渡しを受けている
- C 新所有者:賃貸人の地位を承継
Bは引渡しを対抗要件として、Cに賃貸借の継続を主張できる
ここまでの要点は?
- 賃貸人は使用収益させる義務・修繕義務を負う(民法606条)。
- 使用収益できない部分は当然に賃料が減額される(2020年改正)。
- 賃借人は通知 or 急迫事情があれば自ら修繕できる(民法607条の2)。
- 通常損耗・経年変化は賃借人の原状回復義務に含まれない(2020年改正明文化)。
- 引渡しが対抗要件——新賃貸人にも賃借権を主張できる。