「この許可、知事だっけ、大臣だっけ」。肢を読んでいて、主語の役所がぼやける——期間の数字と並んで、宅建の受験生が振り回されるもう一つの迷いどころです。
そこで、期間・期限の分析と同じ方法で、収録されている過去問の全肢(非公開扱いを除く2,778肢・実質は平成25年以降の15回分が本体)を機械的に走査し、役所・機関の名前が出てくる肢を数えました。先に、この分析でいちばん安心してほしい事実から言います。
主体の入れ替えが仕掛けられる範囲は、およそ10者に収まります。

ここに注目——疑うのは「役所の名前」ではなく「大臣」
機関の名前を含む肢は344本(全体の12.4%)。ただし——「役所の名前が出てきたら疑え」は成り立ちません。肢の誤り率は論点ではなく設問の聞き方でほぼ決まるからです(「正しいものはどれか」なら4肢中3肢が誤り、「誤っているものはどれか」なら1肢だけ)。設問形式を揃えて測ると、機関名を含む肢は80.0%・同じ形式の平均は74.7%で、差はごくわずかでした。
疑う価値があるのは、機関名ぜんぶではなく「国土交通大臣」です。こちらは同じ揃え方で84.2%——平均を約10ポイント上回ります。役所の名前ではなく、大臣の3文字に反応してください。
このうち、解説と突き合わせて「主体の入れ替えそのものが争点」と見られる肢はおよそ40〜45本。1回の試験あたり3肢前後、問題にして毎年1〜2問が、「誰が」を知っているかだけで決まっています(この数字は機械走査+サンプル読みの見積もりで、期間分析のような1肢ずつの全数選別はしていません)。
内訳は宅建士まわり12・免許9・監督処分5・保証協会5——「登録は知事か大臣か」「処分できるのはどの知事か」の一帯に集中しています。
登場人物の一覧——まず、この10者を押さえる
| 主体 | 出てくる場面 |
|---|---|
| 都道府県知事 | 免許・登録・許可・監督・区域指定のほぼ全部 |
| 国土交通大臣 | 2以上の都道府県に事務所を置く業者の免許・講習実施機関の登録 |
| 市町村長 | 特定行政庁(建築主事を置く市の場合)・盛土の市施行 |
| 農業委員会 | 農地の届出・許可の窓口 |
| 都道府県 | 不動産取得税の課税 |
| 市町村 | 固定資産税の課税・公共施設の管理 |
| 建築主事・指定確認検査機関 | 建築確認 |
| 保証協会 | 弁済業務・認証・研修 |
| 供託所 | 供託と還付の実行 |
| 家庭裁判所 | 後見・保佐・補助の審判 |
もちろん、これが全部ではありません(登記所、指定流通機構、各種の登録機関なども出ます)。それでも主体の入れ替えが仕掛けられる場所は、この10者のあいだにほぼ収まります——間違い探しの候補が最初から絞れている、というのが「誰が」問題の正体です。
基準線——迷ったら知事。大臣は「またぐ」とき
登場回数は圧倒的に都道府県知事です(機関語を含む344本のうち270本)。宅建の行政の原則は知事で、免許も、宅建士の登録も、各種の許可も、監督処分も、区域の指定も、まず知事。期間分析の「変化したら30日」と同じで、これは覚えるというより当たり前の基準線として持ちます。
では大臣はいつ出てくるか。大臣が出るのは2種類だけです。①2以上の都道府県に事務所を置く業者の免許、②全国一律の基準や機関を定める話(講習の実施機関の登録など)。
ここで1つ、強い注意があります。「またぐなら大臣」を土地の話にまで広げてはいけません。二以上の都府県にまたがる開発行為でも、許可を出すのはそれぞれの都道府県知事です(平成28年問17)。またぐのは「事務所」であって「土地」ではない——ここが出題者の狙い目です。
そしてここが実測の面白いところで、「国土交通大臣」と書いてある肢は誤りが多い。設問形式を揃えて測ると誤り率84.2%で、同じ形式の平均74.7%を約10ポイント上回ります(この差はシリーズで数えた類型の中でも大きい方です)。知事がやる仕事を大臣に付け替えるのが、出題者の定番の手だからです。令和4年の問29は、宅建士証の更新の際の法定講習を「国土交通大臣が指定する講習」としました。正しくは都道府県知事が指定する講習。大臣↔知事の直球の入れ替えです。
実物で確かめてください。またいでいるかどうかだけ決めてから、めくってください。
逆向きの例外も少数ですが実在します。登録実務講習の実施機関の登録は国土交通大臣(令和6年問29)。「講習を受けるのは知事のところ、講習機関を束ねるのは大臣」という二層を分けて持ってください。
主体リレー——1つの制度の中で、担当が変わる
「誰が」問題の上級編は、1つの手続の中で主体がリレーする場所です。過去問はこの受け渡しの継ぎ目を突いてきます。
| 制度 | リレーの順 |
|---|---|
| 保証協会の還付 | 認証は保証協会 → 還付するのは供託所 → 還付充当金の通知も保証協会(法64条の10) |
| 営業保証金の不足 | 還付は供託所 → 不足の通知は免許権者(法28条)——協会側と取り違えない |
| 区画整理の換地処分 | 通知は施行者 → 公告は知事 |
| 農地転用(市街化区域内) | 許可は不要 → 農業委員会へ「あらかじめ」届出 |
| 不動産取得税と固定資産税 | 取得税は都道府県 → 固定資産税は市町村 |
平成25年の問20は、換地処分の公告を「施行者が行う」としました(正しくは知事)。令和5年の問24は、不動産取得税の課税主体を「市町村及び特別区」としました(正しくは都道府県)。どちらも、リレーの継ぎ目で担当を1人ずらした肢です。
農地転用は二重の争点になっています——市街化区域内の4条・5条は「知事の許可」ではなく「農業委員会への事前の届出」。誰が(知事→農業委員会)と、何が(許可→届出)の2か所が同時に入れ替わる場所で、令和2年10月は「転用した後に届け出た」で誤り、令和3年12月は「あらかじめ届け出た」で正しい——同じ論点が2年で表裏に出ました。
結局、どうするか
- 「迷ったら知事」を基準線に置く。 宅建の行政はまず知事。大臣が出るのは①2以上の都道府県に事務所を置く業者の免許、②全国一律の基準・機関を定める話——この2つだけです。
- 反応するのは「役所の名前」ではなく「大臣」の3文字。 実測で差が出たのは大臣だけでした。ただし登録実務講習の機関登録のように大臣が正しい場所もあるので、機械的に×にはしないでください。そしてまたぐのは事務所であって土地ではない——開発行為が県をまたいでも許可は各知事です。
- リレーの継ぎ目を対で覚える。 認証も還付充当金の通知も協会・還付の実行は供託所(協会側)/不足の通知は免許権者(営業保証金側)。通知は施行者・公告は知事。取得税は都道府県・固定資産税は市町村。継ぎ目の前後を1組で持てば、1人ずらしのウソが見えます。
主体の入れ替えが仕掛けられる範囲は、期間の数字とちがって最初から限られています。全部を疑うのではなく、大臣と継ぎ目だけを疑う——それが「誰が」のコスパの正体です。