「『必ず』『一切』『いかなる場合も』が付いた肢は、だいたい誤り」——先輩の助言やSNSで、一度は聞いたことがあるはずの受験テクニックです。本当なのか。収録されている過去問の全肢(非公開扱いを除く2,778本・実質は平成25年以降の15回分が本体)を走査して、数えました。
結論は、二段構えです。テクニックは正しい。でも、そのまま使うと負けます。

まず、基準線——宅建の肢は、もともと誤りが多数派
検証の前に、必ず知っておくべき数字があります。全2,778肢のうち、誤りの肢は1,575本=56.7%。宅建は「正しいものはどれか」を選ばせる問題が多いので、肢のレベルでは誤りが最初から多数派なのです。
つまり「この表現があると誤りが多い」というテクニックは、56.7%を超えて初めて情報になります。あてずっぽうに「誤り」と答えても半分以上当たる試験で、60%の的中率を自慢しても意味がない——この基準線を引いた上で、数えた結果がこれです。
| 表現 | 肢数 | 誤り率 |
|---|---|---|
| 全肢(基準値) | 2,778 | 56.7% |
| 真の絶対表現(必ず・一切・いかなる場合も・常に 等) | 14 | 78.6% |
| 緩和表現(〜場合がある・こともある) | 36 | 38.9% |
| 例外条項つき(〜を除き・この限りでない) | 83 | 32.5% |
検証結果①——テクニックは、正しい
真の絶対表現を含む肢の誤り率は78.6%。緩和表現は38.9%。基準線の56.7%を挟んで、きれいに上下へ割れています。「言い切りは疑え、含みのある言い方は素直に読め」という直感は、データで裏づけられました。
実例を見ると、なぜ誤りになるのかも分かります。令和元年の問27は、守秘義務を「いかなる理由があっても漏らしてはならない」としました——正当な理由があれば話せるので誤り。令和2年10月の問42は、契約不適合責任を「一切負わない」とする特約——8種制限で無効。絶対表現が誤りになるのは、法律には例外があるのに、例外を消して言い切っているからです。
検証結果②——でも、そのまま使うと負ける
ここからが本題です。理由は2つあります。
第一に、出番がほぼ無い。 真の絶対表現を含む肢は、2,778本中わずか14本=全体の0.5%。15回の試験で14本、1回あたり1本に満たない計算です。的中率78.6%のテクニックは、当たる機会そのものがほとんどありません。
第二に、出題者がこのテクニックを狙って潰しに来ている。 「必ず」で機械的に検索する受験生を撃ち抜く仕掛けが、「必ずしも〜ない」です。見た目は絶対表現、中身は緩和表現——この逆張りの形が22本あり、絶対表現ふうの肢の6割を占めます。中身は緩和なので、多くは正しい肢として出てきます。
実物で試してみてください。「必ずしも」に釣られずにめくれるか——
- 令和6年問32——業務処理状況の報告は「必ずしも書面で行う必要はない」→正しい
- 平成26年問9——未成年後見人は「必ずしも家庭裁判所が選任するとは限らない」→正しい
「必ず」の3文字を見た瞬間に×を付ける読み方は、ここで失点します。しかも念の入ったことに、「必ずしも」型で誤りの肢まで実在します——令和4年の問31は「買主に対しては必ずしも媒介契約の書面を交付しなくともよい」で、これは誤り(買主側の媒介でも交付義務はあります)。つまり「必ず=×」も「必ずしも=○」も、どちらの拾い読みも通用しない。最後まで読んで中身で判定するしかありません。
裏側の発見——「例外まで書いてある肢」は、むしろ正しい
同じ現象を逆から見たのが、この数字です。「〜を除き」「この限りでない」と例外条項を書き込んである肢の誤り率は32.5%——基準値を24ポイントも下回り、むしろ正しいことが多い。
理由は単純で、例外まで正確に書くには条文をそのまま引くしかないからです。条文どおりに例外まで書いてある肢は本物。例外を消して言い切った肢が偽物。絶対表現の78.6%と例外条項の32.5%は、同じ構造を両側から見た数字です。
平成30年の問16は「市街化調整区域には原則として用途地域を定めない」——「原則として」が付いた肢は素直に正しい、の見本で、ほぼ同文が8年前(平成22年問16)にも出ています。
結局、どうするか——テクニックを「使える形」に直す
- 絶対表現は「×を付ける合図」ではなく「例外を思い出す合図」にする。 「いかなる理由があっても」と読んだら、機械的に切らず、「この制度に例外はなかったか」と1秒だけ思い出す。守秘義務なら正当な理由、契約不適合なら8種制限。例外が思い浮かべば、それが根拠つきの×です。
- 「必ずしも」は最後まで読む。 「必ず」と「必ずしも〜ない」は正反対です。3文字の拾い読みで判定しない——これだけで逆張りの22本を無傷で通過できます。
- 「原則として」「〜を除き」が付いた肢は、素直に読む。 例外まで書き込む手間をかけた肢は、条文をそのまま引いている可能性が高い。疑うべきは、短く言い切った肢のほうです。
テクニックが悪いのではありません。数えずに使うのが危ないのです。この試験の作問者は、受験テクニックの存在を知った上で、その裏をかく肢を混ぜてきます。テクニックは「答えを出す道具」ではなく「どこを確かめるかを決める道具」として使ってください——確かめる中身は、結局、例外を知っているかどうかです。