「『必ず』『一切』『いかなる場合も』が付いた肢は、だいたい誤り」——先輩の助言やSNSで、一度は聞いたことがあるはずの受験テクニックです。本当なのか。収録されている過去問の全肢(非公開扱いを除く2,778本・実質は平成25年以降の15回分が本体)を走査して、数えました。
結論は、二段構えです。テクニックは正しい。でも、そのまま使うと負けます。

まず、基準線——宅建の肢は、もともと誤りが多数派
検証の前に、必ず知っておくべき数字があります。全2,778肢のうち、誤りの肢は1,571本=56.6%。宅建は「正しいものはどれか」を選ばせる問題が多いので、肢のレベルでは誤りが最初から多数派なのです。
つまり「この表現があると誤りが多い」というテクニックは、56.6%を超えて初めて情報になります。あてずっぽうに「誤り」と答えても半分以上当たる試験で、60%の的中率を自慢しても意味がない——この基準線を引いた上で、数えた結果がこれです。
| 表現 | 肢数 | 誤り率 |
|---|---|---|
| 全肢(基準値) | 2,778 | 56.6% |
| 絶対表現を含む肢(必ず・一切・いかなる場合・常に・すべての 等) | 36 | 66.7% |
| うち「必ずしも」の逆張りを除いた真の絶対表現 | 31 | 74.2% |
| うち「必ずしも〜ない」型 | 5 | 20.0% |
| 例外条項つき(〜を除き・この限りでない) | 98 | 33.7% |
検証結果①——テクニックは、正しい。しかも思ったより強い
真の絶対表現を含む肢の誤り率は74.2%。例外条項つきの肢は33.7%。基準線を挟んで、きれいに上下へ割れています。
さらに強い裏づけがあります。肢の誤り率は、ふつう論点ではなく設問の聞き方でほぼ決まってしまいます(「正しいものはどれか」なら4肢中3肢が誤り)。ところが設問形式を揃えて測り直すと、真の絶対表現は90.5%——同じ形式の平均74.7%を約16ポイント上回りました。これはシリーズで数えたどの類型よりも大きい差です。「言い切りは疑え」は、形式の交絡を取り除いても生き残る、数少ない本物のテクニックでした。
実例を見ると、なぜ誤りになるのかも分かります。令和元年の問27は、守秘義務を「いかなる理由があっても漏らしてはならない」としました——正当な理由があれば話せるので誤り。令和2年10月の問42は、契約不適合責任を「一切負わない」とする特約——8種制限で無効。絶対表現が誤りになるのは、法律には例外があるのに、例外を消して言い切っているからです。
検証結果②——でも、そのまま使うと負ける
ここからが本題です。理由は2つあります。
第一に、出番がほとんど無い。 真の絶対表現を含む肢は、2,778本中31本=全体の1.1%。15回の試験で31本、1回あたり2本前後しかありません。当たる確率が高くても、当たる機会そのものが少ないのです。
第二に、逆張りの形が混ざっている。 「必ず」で機械的に反応する読み方を外しにくるのが、「必ずしも〜ない」です。見た目は絶対表現、中身は緩和表現——この形は5本と数こそ少ないものの、そのうち4本が正しい肢でした(誤り率20.0%)。絶対表現ふうの肢に出会って反射的に×を付けると、ここで落とします。
実物で試してみてください。「必ずしも」に釣られずにめくれるか——
- 令和6年問32——業務処理状況の報告は「必ずしも書面で行う必要はない」→正しい
- 平成26年問9——未成年後見人は「必ずしも家庭裁判所が選任するとは限らない」→正しい
- 令和4年問29・令和6年問43——宅建士の信用を害する行為は「必ずしも宅建業務に関するものに限られない」→どちらも正しい
「必ず」の3文字を見た瞬間に×を付ける読み方は、ここで失点します。しかも念の入ったことに、「必ずしも」型で誤りの肢まで実在します——令和4年の問31は「買主に対しては必ずしも媒介契約の書面を交付しなくともよい」で、これは誤り(買主側の媒介でも交付義務はあります)。つまり「必ず=×」も「必ずしも=○」も、どちらの拾い読みも通用しない。最後まで読んで中身で判定するしかありません。
裏側の発見——「例外まで書いてある肢」は、むしろ正しい
同じ現象を逆から見たのが、この数字です。「〜を除き」「この限りでない」と例外条項を書き込んである肢の誤り率は33.7%——基準値を23ポイントも下回り、むしろ正しいことが多い。
理由は単純で、例外まで正確に書くには条文をそのまま引くしかないからです。条文どおりに例外まで書いてある肢は本物。例外を消して言い切った肢が偽物。絶対表現の74.2%と例外条項の33.7%は、同じ構造を両側から見た数字です。
平成30年の問16は「市街化調整区域には原則として用途地域を定めない」——「原則として」が付いた肢は素直に正しい、の見本で、ほぼ同文が8年前(平成22年問16)にも出ています。
結局、どうするか——テクニックを「使える形」に直す
- 絶対表現は「×を付ける合図」ではなく「例外を思い出す合図」にする。 「いかなる理由があっても」と読んだら、機械的に切らず、「この制度に例外はなかったか」と1秒だけ思い出す。守秘義務なら正当な理由、契約不適合なら8種制限。例外が思い浮かべば、それが根拠つきの×です。
- 「必ずしも」は最後まで読む。 「必ず」と「必ずしも〜ない」は正反対です。3文字の拾い読みで判定しない——「必ずしも」型は5本中4本が正しい肢でした。
- 「原則として」「〜を除き」が付いた肢は、素直に読む。 例外まで書き込む手間をかけた肢は、条文をそのまま引いている可能性が高い。疑うべきは、短く言い切った肢のほうです。
テクニックが悪いのではありません。数えずに使うのが危ないのです。この試験の作問者は、受験テクニックの存在を知った上で、その裏をかく肢を混ぜてきます。テクニックは「答えを出す道具」ではなく「どこを確かめるかを決める道具」として使ってください——確かめる中身は、結局、例外を知っているかどうかです。