重要事項説明はなぜ宅建士でなければならないのか? — 35条書面の義務の全体像
「宅建士が・証明書を見せながら・契約前に」説明する
重要事項説明(法35条)は、宅建業の中で最も重要な消費者保護の制度の一つです。宅地・建物の取引は高額で複雑な法律関係が絡むため、専門知識を持つ宅建士が書面を作成して記名し、宅建士証を提示しながら説明することを義務付けています。「誰が(宅建士)・誰に(買主・借主)・いつ(契約前)・どのように(宅建士証提示)」という4つのポイントが試験に直結します。

この論点はどう出る?
AランクのQ=170の最高頻度論点です。毎年2〜3問出題されます。「宅建士証の提示が必要か(必要)」「相手方が宅建業者の場合に説明を省略できるか(できる——書面交付は必要)」「テレビ電話等のIT重説は可能か(可能)」「買主・借主への説明は必要か(○)・売主・貸主には必要か(不要)」が繰り返し問われます。H25年(問29-1)では「売主が一般の人・買主が宅建業者という売買で、説明義務を負うのは買主である宅建業者か」(×:重要事項説明は取得する側に対して行うものなので、取得する側が業者であるこの取引では説明義務を負う者がいない)、H25年(問29-2)では「建物の貸借の媒介で、区分所有建物かどうかを問わず管理会社の商号・所在地を借主に説明しなければならないか」(○)が出ました。
なぜ押さえる必要がある?
不動産取引で消費者が最も「知らなかった」と後悔するのは、物件の法律上の問題(建築制限・権利関係等)や契約条件(解除・担保責任等)です。宅建士が事前に説明することで、消費者が「理解した上で契約する」機会を確保します。説明する者が宅建士でなければならない(名義貸しや無資格者による説明は違反)点も、専門家制度の根幹です。
前提として何を知っておく?
→ 37条書面
37条書面は「契約後・当事者全員・説明不要」です。35条書面(このコマ)は「契約前・買主・借主への説明義務・宅建士証提示」という対照的な内容を持ちます。この2つを対比して覚えることが重要です。
説明義務の基本構造(法35条1項)
宅建業者は、売買・交換・貸借の契約が成立するまでの間に、相手方(買主・借主)に対して、宅建士に35条書面を作成させて記名させ、書面を交付した上で、宅建士が口頭で説明しなければならない(法35条1項)。
「説明をする者」は宅建士でなければなりません。業者の代表者や一般社員が代わりに説明することは許されません(ただし、テレビ電話等のIT重説により対面以外で説明することは認められます)。
説明に際して、宅建士は宅建士証を提示しなければなりません(法35条4項)。求められたときだけでなく、説明の冒頭で提示することが義務です。
相手方が宅建業者の場合の特例(法35条6項)
相手方が宅建業者の場合、説明を省略することができます(法35条6項)。専門家である業者には詳細な口頭説明を要しないという趣旨です。
ただし、書面(35条書面)の交付は省略できません(法35条6項では「説明」のみ省略可)。つまり、業者間取引でも35条書面の作成・記名・交付は必須で、口頭説明だけが不要となります。
「業者間では35条書面の交付も不要」という問(×)は典型的なひっかけです。
説明する宅建士は業者の従業員でなくてもよいか
重要事項説明を行う宅建士は、その宅建業者に従業している宅建士であれば足ります(専任宅建士でなくてもよいです)。他の業者の宅建士が「応援」で説明することは通常認められませんが、その業者に所属する宅建士が行えば問題ありません。
また、複数名の宅建士が記名することも可能です。書面に記名した宅建士が実際に説明を行うことが原則ですが、業者が責任を持って35条の義務を果たすことが求められます。
IT重説(電磁的方法による重要事項説明)
2022年の法改正により、宅建業者が利用者の承諾を得た場合、テレビ会議システム等を利用した「IT重説」(電磁的方法による重要事項説明)が法的に認められました(法35条8項)。
IT重説においても、宅建士は宅建士証を画面上で提示しなければなりません。ビデオ通話等を使って対面と同等の状況を確保することが条件となります。
35条書面の主な記載事項
35条書面の記載事項は広範ですが、試験に出やすいものを挙げます。
売買・交換・貸借共通
①登記された権利の内容(所有権・抵当権等)
②法令上の制限(用途地域・建ぺい率・容積率等)
③飲用水・電気・ガスの供給・排水施設の状況
④未完成物件の場合の完了時の形状・構造
⑤契約解除に関する事項
⑥損害賠償の予定・違約金に関する事項
売買・交換の場合に特有
①手付金等の保全措置を講ずるかどうかと、その措置の概要(法35条1項10号)
②代金・交換差金についての金銭の貸借(住宅ローン)のあっせんの内容と、あっせんが成立しないときの措置(同12号)
③契約不適合責任の履行に関する措置(保証保険契約の締結等)を講ずるかどうかと、その概要(同13号)
④既存建物の、設計図書・点検記録など建築および維持保全の状況に関する書類の保存の状況(同6号の2ロ、規則16条の2の3)
⑤区分所有建物の、敷地に関する権利・共用部分の規約・修繕積立金・通常の管理費用の額など(規則16条の2。ただし後述の第3号・第8号を除く)
貸借の場合に特有(規則16条の4の3)
①台所・浴室・便所その他の設備の整備の状況(建物の貸借)
②契約期間および契約の更新に関する事項
③定期借地権・定期建物賃貸借にあたるときは、その旨
④用途その他の利用に係る制限に関する事項
⑤敷金その他、契約終了時に精算することとされている金銭の精算に関する事項
⑥管理が委託されているときの委託先(区分所有建物を除く)
⑦契約終了時における、その宅地の上の建物の取壊しに関する事項(宅地の貸借)
「売買だけ」と思い込みやすい2つ
管理委託先は、貸借でも説明します。 区分所有建物の記載事項(規則16条の2)は、建物の貸借では第3号(専有部分の用途その他の利用制限の規約)と第8号(一棟の建物およびその敷地の管理委託先)の2つだけが残ります。つまり管理委託先は、売買でも貸借でも説明が必要です。さらに区分所有建物でない建物や宅地の貸借でも、規則16条の4の3第12号によって管理委託先の説明が必要です。結局、貸借では区分所有建物かどうかを問わず管理会社の商号・主たる事務所の所在地を借主に説明します(H25-29-2・R1-41-1 でいずれも○)。むしろ区分所有建物でない建物の管理委託先は、売買では説明不要(=貸借に特有)である点に注意してください。
建物状況調査は、「結果の概要」と「書類の保存状況」で扱いが分かれます。 法35条1項6号の2は「当該建物が既存の建物であるとき」としか定めておらず、同条1項の柱書は売買・交換・貸借のすべてを対象にしています。したがってイの「実施の有無および結果の概要」は貸借でも説明が必要です(R3-12-44-2 ○)。売買・交換に限られるのはロの「書類の保存の状況」のほうで、こちらは規則16条の2の3が対象書類を「売買又は交換の契約に係る住宅に関する書類」と限定しているためです。
なお、媒介契約書面(34条の2書面)の「建物状況調査を実施する者のあっせん」は、建物の売買・交換の媒介に限られます。あっせん(34条の2・売買と交換のみ)と、結果の概要の説明(35条・貸借も必要)は別の義務です。この2つの混同が「建物状況調査は売買だけ」という誤解の原因になりやすいので、切り分けて覚えてください。
| 項目 | 35条書面(重要事項説明書) |
|---|---|
| 交付時期 | 契約締結前(成立までの間) |
| 説明義務 | 宅建士が口頭で説明(必要) |
| 説明相手 | 買主・借主(売主・貸主は対象外) |
| 宅建士証の提示 | 必要(法35条4項) |
| 相手方が業者の場合 | 説明省略可・書面交付は必要(法35条6項) |
| IT重説 | 可(利用者の承諾必要) |
ここまでの要点は?
- 35条書面:契約締結前に宅建士が説明(宅建士証提示必要)
- 交付先:買主・借主(売主・貸主への説明義務はない)
- 相手方が宅建業者の場合:説明省略可・書面交付は省略不可
- IT重説:認められる(ただし宅建士証を画面提示・利用者の承諾が必要)
- 管理委託先・建物状況調査の結果の概要:貸借でも説明が必要(売買特有ではない)
- 売買・交換だけに必要:手付金等の保全措置・ローンのあっせん・契約不適合責任の措置・建物状況調査の書類の保存状況
35条書面の全体像
理解度マインドマップチェック
35条書面の全体像
35条書面の全体像
- 基本ルール
- 交付時期
- 契約成立まで
- 説明する人
- 宅建士
- 説明を受ける人
- 買主・借主
- 説明義務なし
- 宅建士証
- 必要
- 交付時期
- 業者間取引
- 口頭説明
- 省略できる
- 書面交付
- 省略できない
- 口頭説明
- IT重説
- 利用者の承諾
- 必要
- 宅建士証の提示
- 必要
- 利用者の承諾
- 出やすい記載事項
- 共通事項
- 登記された権利
- 法令上の制限
- 区分所有建物
- 管理委託先
- 既存建物
- 建物状況調査
- 共通事項