「宅建士は、登録の移転を申請しなければならない」——この一文、どこがウソか分かりますか。答えは文末です。登録の移転は「できる」、つまり任意であって義務ではない。数字も主体も合っているのに、最後の五文字だけで誤りになる。
こういう「言い回しの入れ替え」がどれだけあるのか、収録過去問の全肢(非公開扱いを除く2,778本)で数えました。先に全体の見取り図です。

まず、ノイズを外す——文末表現の9割は争点ではない
「〜しなければならない」を含む肢は702本、「〜することができる」は594本。合わせて全肢の半分近くに現れますが、誤り率はそれぞれ58.4%・52.7%で、基準値56.7%(宅建の肢は誤りが多数派)とほぼ変わりません。つまり文末表現そのものは、条文を書き写した結果にすぎないノイズです。文末を見ただけで疑ったり安心したりする必要はありません。
では、義務か任意かの入れ替えそのものが争点になった肢はどれくらいあるか。素直に読み分けると1回の試験に1〜2本という規模でした(この数は解説を読んでの判定なので、期間分析のように1肢ずつ保存した数字ではありません——正確な本数は主張しません)。少ない。でも、この一群には強烈な偏りがあります。
「できる」の代表は、登録の移転——3年続けて、毎回違う角度から
宅建でいちばん繰り返された義務⇔任意の入れ替えは、宅建士の登録の移転です。勤務先が他県に変わっても、登録を移すかどうかは本人の自由(「できる」)——これを「移転しなければならない」に書き換えたウソが、令和3年12月と令和4年に出ています。
しかも面白いのは、登録の移転そのものは3年続けて出ているのに、突かれた場所が毎回違うことです。令和3年10月は「甲県知事を経由せずに直接乙県知事へ申請できる」(誤り——今の登録知事を経由します)で、狙われたのは義務か任意かではなく申請の経路でした。同じ論点でも、角度は変えてきます。
実物がこれです。文末に注目してめくってください。
セットで覚える中身は3つだけです。①移転は任意。②申請は今の登録知事を経由する(「誰が」の論点と重なります)。③事務禁止処分の期間中は移転できない。3年続けて出たものは、また出ます。
もう1つ、努力義務にも触れておきます。「〜するよう努めなければならない」の型は10本前後しかありません。ただし、ここは注意して読んでください——「努力義務かどうか」自体が争点になった肢は、実はほとんどありません。
令和4年の問30は従業者への教育で「努めなければならない」のまま出て正しい肢。令和7年の問19(盛土規制法)は「工事主又は工事施行者は、常時安全な状態に維持するよう努めなければならない」で誤りですが、誤っているのは努力義務を負う人(正しくは土地の所有者・管理者・占有者)であって、努力義務という言い回しではありません。
つまり努力義務も、文末表現と同じでそれ自体はノイズ。見るのは「誰の」努力義務か、です。条文(従業者教育・盛土の安全維持など)は、主語とセットで覚えてください。
「又は」の入れ替え——両方要るのに、片方でよいと言う
もう1つの言い回しの型が、AND と OR の入れ替えです。まず意外な事実から——「及び・並びに・又は・若しくは」という接続語の読み分けそれ自体を問う出題は、宅建にはありません(接続語を含む肢は700本以上ありますが、誤り率は基準値以下。条文をそのまま引いている印です)。法学部の勉強のように「並びに」と「及び」の階層を暗記する必要はない、ということです。
争点になるのは語ではなく中身——「両方必要なのに、片方でよいと言う」型です。こちらは実際に繰り返されています。
| 両方必要なもの | 過去問のウソ |
|---|---|
| 37条書面の「引渡しの時期」と「移転登記の申請の時期」(売買・交換の場合) | 「いずれかを記載すればよい」(R3・12月・問26) |
| 取引態様の明示は「広告のとき」と「注文を受けたとき」 | 片方だけで足りるように見せる(R2・10月・問27) |
| 案内所の届出は、その案内所で契約行為等を行う業者それぞれ(売主業者と媒介業者が共同で行うなら双方) | 代理・媒介業者だけが届け出ればよいと見せる(R6問39・これは正しい肢として双方を明記) |
| IT重説は「映像」と「音声」の両方 | 電話(音声のみ)でよいと見せる(R4問40) |
読み方は1つです。義務の場面に出会ったら、「これは両方か、片方か」を義務ごとに確定させる。期間分析の「遅滞なく・速やかに・直ちに」と同じで、語の使い分けを暗記するのではなく、中身を1つずつ確定させれば言い回しに振り回されなくなります。
結局、どうするか
- 文末表現では疑わない。 「しなければならない」「できる」は全肢の半分にあるノイズ。見ただけで構えを変える必要はありません。
- 「できる」の代表例を数個だけ持つ。 筆頭は登録の移転(任意・現知事経由・事務禁止中は不可)。3年続けて、毎回違う角度から出ています。努力義務は「誰の」努力義務かをセットで。
- 「両方か、片方か」を義務ごとに確定させる。 37条の2つの時期(売買・交換)、取引態様の2場面、案内所で契約行為等を行う業者それぞれ、IT重説の映像と音声。接続語の文法は覚えなくていい——確定した中身が、そのまま点になります。
一字の言い回しは、ノイズと争点を分ければ怖くありません。争点は狭く、しかも繰り返されています。